永代橋の今
鬼頭早季子 
(筑波大学大学院)



色。隅田川に架かる、薄い布で覆われた永代橋は、まるでクリスト&ジャンヌ=クロードのアートであるかのようであった。すこし前の失せたペンキの「青」や、堀野正雄が撮った昭和初めの「黒」光りの印象を、一瞬、曇り空と同化させ、風景の中に消し去った。そもそも永代橋は関東大震災後においては帝都復興の象徴であった。1984年の「隅田川著名橋の整備」によって色が決められた。「雄大な形態を堂々と浮き出させて見せ、水辺に親しむ空間となる『あおふじいろ(ラベンダーブルー)』」。今回もまたその色に再塗装されるという。しかし依然、堀野が白黒写真で捉えた時の橋の色は不明である。

塗装業者。有名建築家の建てた建物には、作家名として建築家の名前がでることがある。無名の人の建物は、同じ様にはいかない。しかし復興局土木課が造った永代橋は、有名建築ではあるが、建造者の名は表出しない。それはいつも疑問である。今回の塗装工事では、塗装者の顔が看板に掲げてあった。「生産者の顔が見える野菜」の、生産することの責任か、作り手への購買者の親近感を生むためか、スーパーに表示されている生産者の顔写真の如く。彼らはすぐ近くで働いていた。