展覧会紹介「転換期の作法 ポーランド、チェコ、スロヴァキア、ハンガリーの現代美術」展
濱田真由美 
(国立国際美術館 研究補佐員)

本展覧会は、「中欧」という枠組みに含まれる4カ国─ポーランド、チェコ、スロヴァキア、ハンガリーの現代美術を紹介することを目的としている。日本では、戦後「東欧」と呼ばれてきた地域全体が「西欧」に比べてまだまだ馴染みの薄い地域であり、「中欧」という概念はさらに耳慣れないものであるだろう。これらの括り自体がすでに政治的産物にすぎないのだが、「中欧」という概念が「東欧」とは異なるものとして積極的に使われ始めたのは、1980年代末のいわゆる「東欧革命」を経た後のことである。これまでにも、この地域の特定の国や作家に焦点を絞った展覧会はいくつか行われているが、1990年代以降の現代美術に焦点を絞った展覧会は本邦初である。つまり、ここで来館者が目にするのは、そのような大きな変革を体験した当事者の生の証言であると言えるだろう。
 本展に出品する10名と1グループの作家はすでに世界各地で活躍している者がほとんどであり、その表現方法(媒体)も様々だが、彼らの作風には独特のユーモアや批判精神が貫かれている。例えば、ラクネル・アンタルの運動器具を捩った装置やクリシュトフ・キンテラの作品に現れる生き物のような不思議な物体は、日常生活のどこかで目にしたような既視感を与えつつ、現代の消費社会をユーモラスかつアイロニカルに示している。一方、イロナ・ネーメトやミーラ・プレスロヴァーは、男性中心主義や西欧中心主義といった偏った社会に対する批判を容赦なく表明し、そうした既存の価値観を疑うことを見る者に訴えかけているようである。
 冒頭で述べたように、日本では西欧やアメリカなど文化の「中心」と考えられてきた(いる?)国々の美術を紹介する機会には事欠かないが、長らく「周縁」と考えられてきた地域についての情報はまだ乏しく、その一端を目にすることができるというだけでも、すでに本展は稀少である。だが、EUへの加盟によって「周縁」から「中心」へと移行しようと目論むこれらの国々と、アジアの一小国から「大国」の仲間入りを目指す日本には、どこか共帳する問題が潜んでいるのではないか。そのようなことを考えながら、彼らの作品が発する様々なメッセージを読み取るとき、それらは我々により興味深い示唆を与えてくれるかも知れない。
 本展覧会では、日本でほとんど目にすることのできない彼らの作品を現地の様々なコレクションから借用して展示するとともに、作家たちがこのために新たに制作した、あるいは当館で再制作するという貴重な作品も出品される。また、二人の出品作家による「こどものためのワークショップ」も展覧会オープン直前に開催されるが、それは彼らの作品を理解する重要な手がかりとなるに違いない。本稿を執筆中の現時点ではまだそうした全貌が明らかになっておらず、残念ながらこれ以上お伝えすることができないので、是非とも会場に足を運んでご自身の目で確かめていただきたいと思う。

◎出品作家(P=ポーランド、C=チェコ、S=スロヴァキア、H=ハンガリー)
パヴェウ・アルトハメル(P 1967- )/アゾロ(P)/ミロスワフ・バウカ(P 1958- )/パウリーナ・フィフタ・チエルナ(S 1967- )/クリシュトフ・キンテ(C 1973- )/ラクネル・アンタル (H 1966- )/イロナ・ネーメト(S 1963- )/ミーラ・プレスロヴァー(C 1966- )/セープファルヴィ・アーグネシュ (H 1965- )+ネメシュ・チャバ (H 1966- ) /アルトゥール・ジミェフスキ(P 1966- )