H.ヴェルフリン『美術史の基礎概念』
 海津忠雄訳 慶応大学出版局 2000年
上村博 

ヴェルフリンの『基礎概念』はかつて一世を風靡した様式史の典型を示す著作である。旧訳は入手困難だったが、このたび新たな翻訳が出た。様式史は今日いささか古臭く語られることもあるが、実際にヴェルフリンの著作を読むと、その非常に鮮やかな切り口に魅せられる人は多いだろう。特に、ルネサンスとバロックの空間のあつかいかたは、教科書的に五つの対概念を並べただけでは、その本当の興味深さはわからない。たとえば、「平面」対「奥行き(深さ)」など、それだけ取り出しては誤解を生じてしまうだろう。機械的分類の特徴が問題ではなく、バロックがいかに「表面」を革新したか、それが肝心である。ただし、彼の著作としては、大部だが特に建築を論じた『ルネサンスとバロック』の方が最初に読むには良いかもしれない。新訳はありがたいが高価(10000円)なのが難。