ハル・フォスター編『視覚論』
 榑沼範久訳、平凡社、2000年
佐藤守弘 
(本学講師)

本書は、Vision and Visualityという原題の、視覚文化論の基礎的テクストと呼んでもよい論集である。非常に単純化して言えば、〈視覚〉とは、生理的なメカニズムによって「見る」ことを意味し、〈視覚性〉とは社会的・歴史的に構築された「見る技法」のことを指す。ところが近代におけるさまざまな〈視の制度〉は、この二種類の〈見ること〉の差異を隠蔽し、自然化してきた。そうした制度――例えばルネサンス以降の「デカルト的」遠近法主義――を攪乱し、脱構築することが本書の目的である。この目的のもと、現代の批評を代表する五人の論客――M・ジェイ、J・クレーリー、R・クラウス、N・ブライソン、J・ローズ――が意見を交わす。なかなか手強いテクストではあるが、現代における視覚文化論の先端に触れてみるのもよいだろう。