佐藤道信『〈日本美術〉誕生 ──近代日本の「ことば」と戦略』
 講談社選書メチエ、1996年、1500円(税別)
佐藤守弘 
(本学講師)

明治維新の後、さまざまな概念が西洋から輸入された。「美術」という概念もまた、明治期に翻訳されたものの一つである。江戸期までは渾然一体としていたさまざまな視覚文化の制作/受容の現場に、「美術/工芸/工業」というヒエラルキーが導入され、また同時に「美術史」という学問領域も成立した。1880年代のことである。しかし、これは近代の国民国家として生まれ変わろうとしていた明治国家の政策と緊密に結びついたものであった。日本美術史とは、「一九世紀の国際情勢の中で生まれた、近代日本の国家思想による歴史の再編であり、作品というモノのヴィジュアルイメージによりながら、その実、ことばによって記された言説の体系」であると著者はいう。近年、日本美術史という言説を検証し直す作業が盛んになっているが、本書はその先駆けとなった研究である。北澤憲昭『眼の神殿』(美術出版社、1988年)とともに読むと、理解が深まるであろう。