大正時代、民衆による、民衆のための芸術──日常に使われた陶磁器、漆器、布、さらには大津絵などの絵画──に美を見出す運動が興った。いわゆる「民芸運動」である。雑誌『白樺』の同人であった柳宗悦が中心となって、それまで顧みられることのなかったさまざまな制作物に光を当てた運動であった。民芸によってはじめて世に出たモノは多い。「無名」の工人に対する過剰なまでのロマンティシズムに裏打ちされた柳の情熱の成果である。本書は、民芸運動の理論的支柱となった柳による諸論文を収めたものである。しかし、今からみると随分批判するべき点も多い。彼の同志の作る、新しい「民芸」作品という矛盾した存在に口をつぐんでいること。また、「無名の工人」を賛美するが故に思考停止におちいること。そして「近代の超克」にも通じる本質主義。さらには、柳自身が一種の教祖的存在となってしまうこと。本書を読む際にも、そういった点に気を付けて読むべきであろう。
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