細馬宏通『浅草十二階 ――塔の眺めと〈近代〉のまなざし』
 青土社、2001年
佐藤守弘 
(本学講師)

時は明治、一八九〇年、東京きっての盛り場、浅草に(当時としては)とてつもない高塔が建設された。凌雲閣と名付けられたその塔は十二階建てであり、即物的に〈浅草十二階〉として親しまれ、さまざまな文学にも描かれた。当然、それほど高い場所は東京にはなかったので、見物客はひきもきらず、一九二三年、関東大震災により倒壊するまで、まさに東京一の名所といってもおかしくはないランドマークとなった。塔からの眺めは、田山花袋により「天然の大パノラマ」と評せられた。近代的視覚装置であるパノラマと、高塔からの眺めはどのような関係にあるのか? 著者は、当時の文学、文献、視覚資料を駆使して、その疑問に挑む。