今和次郎『考現学入門』
 藤森照信編、ちくま文庫、1987年
佐藤守弘 
(本学講師)

昭和初期、妙な集団が東京の路上に現れた。建築史家、今和次郎に率いられたこの集団は、自らを〈考現学者〉と名乗っていた。ノートを持ち、道を歩く人の姿をスケッチし、その服装や行動の統計を取る。あるいは、茶碗がどのように欠けるか、割れたガラス窓はどのように修理されるか。彼らの眼は、あてどもなく、都市の表層をくまなく走査しつづける。考現学、あるいは〈モデルノロヂオ〉とは、考古学をもじって造語された言葉であった。「考古学と同じくそれは方法の学であり、そして対象とされるものは、現在われわれが眼前に見るものであり、そして窮めたいと思うものは人類の現在である」と今は語る。この不思議な視覚的採集の概略をつかめる一冊である。