〈映像作品〉としてではなく、〈行為〉として写真を読み解く。フランスの精神分析家によって書かれた本書は、そういった新しい試みに挑戦したものである。人は、様々な経験を自らの心的な必要を充たすものに加工することによって、いわば経験を〈消化〉している。このプロセスが、心理学でいう〈象徴化〉の過程である。ところが、さまざまな理由によって象徴化されえないものが残る。これがいわゆる〈トラウマ〉と呼ばれるものである。現代社会に生きる私たちは、不断に膨大な情報に晒されつづけ、その量に象徴化が追いつかない。そうして残存していくトラウマを解消する心的プロセスを稼働させるもの。それが写真を撮る/観るという行為であるとティスロンは説くのである。タイトルからも推察できるように、本書は写真論の古典であるロラン・バルトの『明るい部屋』(花輪光訳、みすず書房、1985年)――多くの人が引用するが、無批判に使用することが多い――を批判的に継承したものである。
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