岩城見一編『芸術/葛藤の現場――近代日本芸術思想のコンテクスト』
 シリーズ「近代日本の知」第4巻、晃洋書房、2002年
佐藤守弘 
(本学講師)

明治期に西洋から移入された「美」や「芸術」という概念が、どのような摩擦を引き起こしながら、定着し、制度化されてきたのか。美学/芸術学/美術史の研究者たちのあいだで――さらには現場の制作者までも巻き込んで――この問題が 活発に討議されるようになってから随分経つ。多くの研究者が、この問題を自覚し、さまざまな「神話」の解体に取り組んできた。本書においても、美学/美術史の制度化、美術史講義、美術館や批評などの現場、近代における芸術意識、アジアのなかの日本芸術、そして「京都学派」と芸術という五部にわたって、十五人の研究者が真摯な議論を繰り広げている。これまで比較的検討されてこなかった「美学」という研究領域の成立や、日本とアジアの関係が大きく扱われているのは注目に値する。特に帝国主義日本が植民地に、美術制度を移植していく過程――それぞれ韓国、台湾、中国の研究者によって分析される――は、文化政策/統治システムとしての「美術」の姿を明らかにするものである。