明治後期から大正時代には、現在の視覚文化研究の先駆ともいえる研究がさまざま行なわれていた。宮武外骨の浮世絵/絵葉書研究、権田保之助の民衆娯楽研究、柳宗悦の民芸運動、今和次郎の考現学など。柳田国男の民俗学も含めていいかもしれない。近世/近代のさまざまなポピュラー文化を見据えた研究である。もちろん現在の視覚文化研究とは、特に理論面において大いなる断絶があることは強調しておかなければならない。しかし、昨今、これらの研究を批判的に検証しようという動きが盛んである。そんな中、ついに見世物研究の基礎文献と言うべき本書(1928年刊)が文庫形式で手に入るようになった。著者の朝倉無声は明治大正期の文学/風俗研究者。本書は三部に分けられている。まず手品、曲芸などの「伎術篇」、珍獣、猿回しなどの「天然奇物篇」、そして人形やからくりなどを扱った「細工篇」。帝国図書館の司書であった著者は、丁寧に史料にあたり、今には伝わっていない見世物の数々をいきいきと描き出す。近世には民衆の視覚文化体験の重要な位置を占めていた――そして近代の美術の制度化によって無視された――見世物の姿を伝える名著である。
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