『アリストテレース 詩学・ホラーティウス 詩論』
 岡・松本訳、岩波書店(岩波文庫)、1997年、700円(税別)
 isbn:4003360494
若林雅哉 

『詩学』は、ギリシア悲劇を子細に観察したアリストテレスの手による、「悲劇の制作論」である。彼は因果結合による「筋の統一」を理想とし、その観点から悲劇制作の実際を考察していく。この「統一性」概念は広汎に受け継がれ、やがて西洋文化における「作品概念」のプロトタイプとなっていった・・。──こういったチャート式の紹介に頼らず、ぜひ手にとって読んでいただきたい。そのときには、実際の悲劇作品と照らし合わせながら、自らの見解を練り上げていくアリストテレスの手法に気がつくはずである。(若干の分類癖は否めないが)彼の議論は徹底的に具体的であり、高圧的な「規則・規範」に留まるものではない。もちろん「(有機的)統一」などのキーワードが持つ適用範囲の広さや、その後世への影響の重大性から、その議論に普遍性なり“永遠の詩学”なりを、見出す向きもあるだろう。だが、詩学はその歴史的なコンテクスト(ギリシア悲劇というジャンル)に即して初めて意義深く、またわたしたちが自分で考える糧を与えてくれるはずだと、わたしは考えている。そのためにも、ギリシア悲劇についての詳細な註を完備した岩波文庫版を推薦しておきたい。