岩波ジュニア新書はその名の通り「青少年向け」のシリーズであるが、執筆者は各分野の研究者・経験者であり、内容やレベルは決してあなどれないものがある。ちなみにある大学では、本書を一般教養のテキストとして用いていると聞く。 内容は15の章にわたり、代表的な作品を時代順に各章一件ないし二件づつとりあげ、「作者が何を表現しようとしたのか、またそれらが日本の仏像の歴史のうえでどのような位置をしめるのか」という様式の問題が、技法などの解説を織り込みつつ説かれてゆく。叙述は平易だが、それが高度な調査研究の成果に立つことは、著者の論集『日本彫刻史研究』(中央公論美術出版)を繙くまでもなく感じられるところであろう。作品の数が絞られているだけに、ひとつひとつの造形をつぶさに見つめ、考えるための優れた手引となっている。 なお同じ著者による概論としては、講談社版『日本美術全集』に分載された通史と、『運慶と鎌倉彫刻』〈ブック・オブ・ブックス日本の美術12〉(小学館、1972年)があることを書き添えておきたい。
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