「聖徳太子という日本史で稀有な理想主義的政治家の悲劇を描いた本である。著者の幻想が、手堅い学問的手法に裏打ちされて、力作だと思った」──とは、1975年に単行本として上梓された当時の朝日新聞『天声人語』での評である。「血塗られし手」の章など、若き日に海軍入隊経験をもつ著者が太子の人物像を内在的に観察しようとしていることがうかがえ、著者自身「あえてその内部に文学たらんとする意志を秘めて」執筆したという本書は、たとえば上記の町田氏の著作とは対照的であり、今回の4冊のなかで異色かもしれない。 しかし、斑鳩という地を「太子コロニー」としての性格のもとに位置づけ、その視点に立って再建法隆寺における美術の特質を指摘する論、なにより聖徳太子という一人の人物を軸として、古代の仏教美術を構造的に解明しようとする試みは魅力的である。 なお本書の構想は、『人間の美術3仏教の幻惑』(学習研究社)においてビジュアルな形で展開されている。あわせての一読をおすすめしたい。
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