大橋一章編著『寧楽【なら】美術の争点』
 グラフ社 1984年、1800円(税別)
 ISBN4-7622-0071-3
杉崎貴英 

「法隆寺は再建か非再建か」「高松塚古墳の被葬者は誰か」といった古代史上の事実認識にかかわる問題や、「広隆寺弥勒は朝鮮渡来か」「薬師寺本尊と白鳳・天平論争」といった美術作品の様式認識にかかわるものなど8つの論点について、明治以来の研究史が丁寧に追跡されている。今に残された数少ない史料と作品、つまり“事実”から、いかに妥当な“解釈”を導きだすか。新たな謎が浮かび上がり、あるいは先学の解釈がくつがえされ、論争は複雑化してゆく。読み手はその過程をたどるなかで、史料解釈や作品記述のより有効な方法についても考えさせされるのである。
なお大橋氏の編著にかかる研究史の本は、以降『薬師寺』『斑鳩の寺』〈日本の古寺美術〉(保育社)『論争奈良美術』(平凡社)『法隆寺美術 論争の視点』(グラフ社)『薬師寺 千三百年の精華』(里文出版)と時々の最新の成果をも盛り込みながら続々と刊行されている。あわせて参照されたい。