運慶といえば、歴史の教科書にも東大寺仁王像の作者として登場していた著名な仏師。その仁王像の解体修理など、近年新たな発見が相次いでいる。本書は『産経新聞』紙上において、上横手氏(中世史)と松島氏(彫刻史)との間で繰り広げられた「切れば血の噴き出るような対論」(編集者のあとがきによる)をまとめたもので、根立氏が伝記的叙述を補っている。 討論は「東大寺復興事業と運慶」「東国での運慶の造仏」「運慶と高野山との関係をめぐって」など8ラウンドからなる。上横手氏は、運慶が生きた時代の政治社会史の深い理解のもとに疑問を投げかけ、松島氏は仁王像解体修理の監督にあたった経験やゆたかな構想力のもとに、次々と新たな解釈を打ち出す。同じ史料を扱っても研究分野が異なれば解釈も違ってくることがよくわかるが、対論はこれまで論じられてこなかった問題を少なからず提起しており、この手の企画にありがちな予定調和的対談にはない知的刺激をもたらしている。 なお松島氏は連載の途上で逝去された。編集者によって付された「運慶に出会う旅10選」には、松島氏が運慶作品である可能性を発表しながら論考を残し得なかった長野・仏法紹隆寺の不動明王立像も挙げられている。
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