千野香織・西和夫共著『フィクションとしての絵画−美術史の眼 建築史の眼−』
 ぺりかん社、1991年、2800円(税別)
 ISBN4-8315-0795-4
杉崎貴英 

“絵そらごと”という言葉は、絵画が本来的にフィクションであることを端的に示している。では“絵”はいかにして、“そらごと”を具現化しているのか?あるいは“絵”のテクニックとして、どのような“そらごと”を秘めているのか?
本書は、絵画史と建築史の研究者が繰り広げた「連論」をまとめたもの。話題となった作品は平安から江戸まで、形態も絵巻・屏風・色紙・扇面さらに絵地図とさまざまだが、絵のなかの空間、絵があった空間をめぐって連論がなされるなかで、絶えず浮かび上がったのが表題のような問題意識であった。「空間を引き伸ばす」「自在に視点を変える」「複数の情景を合成する」「屋根や天井を取り払う」……著者たちが論じたそれらの問題が、索引にインデックス化されているのも面白い。それはまた、本書のテーマが“絵画の方法”にあるという主張のあらわれなのであろう。
ただ本書終わり近くで千野氏は、連論が「絵空事の方法」に終始したことを反省し、「感動する心を大切に保ちながら」、作品の「良さ」を普通の言葉で語る努力の重要性を訴えている。この一節にも忘れず耳を傾けたい。