湯本豪一編『美術館・博物館は「いま」』(正・続)
 日外アソシエーツ 1994・96年 各1922円(税別)
 (正)ISBN4-8169-1262-2(続)ISBN4-8169-1342-4
杉崎貴英 

副題にそれぞれ「現場からの報告24篇」「機構・運営の理想と現実」とあることからもわかるように、一般には見えにくい部分も含めた博物館・美術館の全体像を、学芸員のみならず事務職を含めた舞台裏からのレポートによって知らしめようと企画された本。1990年前後に開館した東京・神奈川の公立館の職員が執筆にあたっている。正編では収集・保存・展示・調査研究・教育普及と、教科書も説く活動の諸側面に即して事例が報告されるが、広報・学芸員実習・ボランティアなどに関する現場担当者の声などは、あまり類書に登場してこなかった話題であろう。続編には建築・運営形態・設立準備・業務分担・職員の専門性・雇用形態といった、より現実的な面からの報告がなされている。「行政側から見た博物館」「財団経理の実態」についても一章を割く。
博物館学の教科書などでの情報は、多くが表面的・皮相的である、と編者はいう。強烈な現状認識と問題提起が盛り込まれた本書から5年、ミュージアムを取り巻く状況は一層厳しく、さらに多くの論点が認識されるべきことは疑いないであろう。
なおミュージアムの業界誌ともいうべき『博物館研究』(日本博物館協会、月刊)に、現場からの報告が逐次掲載されることを付記しておきたい。