「書き終えて、『これは僕の遺書だな』と思う」──「父・奥村土牛の素描を燃やしたわけ」という穏やかならぬ副題をもつ本書は、四男がつづった相続税との闘いの記録である。作品(資料)群の保存、個人コレクションの継承など、美術館学的理想論を離れて本書を読めば、誠にやるせない気分に襲われること間違いない。「美術品の価値、絵画の価値とはいったい何だろう?」闘いの渦中で著者は呟く。現代日本における個人所有の美術コレクションは、相続税によって遺族を押しつぶそうとしている。土牛が自らの手許に残していた作品群もまた、その例に漏れなかったのだった。 「悲劇を繰り返さないために」と著者は、美術品相続に関する新たな相続税制、「美術品の相続登録制度」を提案している。ここで想起されるのは、1998年施行の「美術品の美術館における公開の促進に関する法律」において定められた相続税の物納特例措置であろう。いわゆる「登録美術品制度」によるものであるが、それは奥村氏の提案とは目的と仕組みを大きく異にしている。本書はいまだ多くの問題点を訴え続けているといっていい。 なお始まったばかりの登録美術品制度については、さしあたり『美術品公開促進法Q&A』(ぎょうせい、1999年)、『月刊ギャラリー』1999年6月号の特集のほか、登録者第1号となった荒俣勝行氏のHP(www1.ttcn.ne.jp/~aramataa/)を参照されたい。
|