今回は日本美術(史)を概説的に扱った本の特集としたいが、この種の本は多いように見えて、実は読者を惹きつけるものが少ないように思えてならない。そこで一人の書き手が各々の史観でものした総論に限り、さしあたり4冊〔別項参照〕を挙げよう。 最近逝去された著者は、その一世紀を超える生涯を通じ、数多くの研究を遺された。「日本美術の文学性」など全般的な論考に限っても、著作集第1巻(思文閣出版)の大冊をなしている程である。 本書は問答によって構成された、原始から戦後までの日本美術の通史。聞き手をつとめた文明史家・上山春平氏が『日本美術を貫くもの─秋草の美学』という別題を提案されたように、藤原時代以降の日本美に通底するものを「情趣主義」とし、それを象徴するモチーフとして「秋草」を挙げ、これを基礎的視点として講話がなされている。 桃山時代以降の近世絵画に関する論が半分近くを占めるなど、事項や作品の呈示にはいささか偏りが感じられるが、源氏が全時代各分野にわたって遺された膨大な成果を顧みる時、一人の美術史家が獲得した史観の豊かさが思われるのである。
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