島尾新『雪舟の「山水長巻」風景絵巻の世界で遊ぼう』
 〈小学館アートセレクションシリーズ〉
 ISBN4-09-607008-4 \1900(税別)
杉崎貴英 

2001年10月刊。すでに源氏物語絵巻、伊藤若冲などを刊行した同シリーズは、原寸大写真を多く含むのが魅力の一つ。本書はとくに、雪舟没後500年の前年という時宜を得た出版である。
 まことに今年度は、雪舟関係の刊行物がひときわ目立っていた。宮島新一『雪舟−旅逸の画家』(青史出版)は前年度刊行であったが、(1)島尾新『「天橋立図」を旅する 雪舟の記憶』〈国宝と歴史の旅11〉(朝日新聞社、4月)、(2)今谷明・宮島新一『画壇統一への夢 雪舟から永徳へ』〈歴史ドラマランド〉(文英堂、5月)(3)本書、(4)『国華』1275・1276号の雪舟特集(朝日新聞社、1・2月)、(5)山下裕二編『雪舟はどのように語られてきたか』〈平凡社ライブラリー〉(2月)、(6)『芸術新潮』3月号特集「逸脱の画聖 ほんとうの雪舟へ!」(新潮社)、そして(7)東京国立博物館・京都国立博物館編『雪舟』展図録(毎日新聞社、3月)。このほか新聞・雑誌の記事を含めれば相当な数に上ろう。
 「ひとは彼を画聖(カリスマ)と呼ぶ」とは今回の雪舟展のキャッチ・コピーだが、その図録を含め、今年度刊行の諸書は、実は謙虚な礼讃を目的とはしていない。その名声にかなうほど人口に膾炙しているとは言い難い人物像および画業、さらにその評価の再検討にとりくむことで共通する。
 本書はまず、絵のなかの山水をたどるように、作品をつぶさに観察してゆくことから始まる。著者による雪舟論も末尾で平易に論じられるが、そうした解釈よりは、まずは作品の実感を読者に提示しようとしている。一般的には、この“水墨画”に青や緑が塗られ、鮮やかな朱さえ点じられているのが新鮮な発見となろう。いかに描いたのか?なぜここにこれを描いたのか?という視点のもとに著者は道案内を続ける。「場面をどこで切るか」さらには「雪舟の失敗?」といった発想もこうした視点あってこそ。参考図版も豊富であり、見比べることで山水長巻の位相をつかむことができる。
 最も著名な日本前近代の画家であろう雪舟はまた、最も夥しい《解釈》に覆われてきた画家でもある。ともあれこの度、彼自身の残した《事実》=作品の多くがフェアに提示=展観された。この春、ブームにはまって自分なりの解釈に挑戦してみるのも一興か。会場の混雑には閉口するけれど。