窪島誠一郎『無言館ノオト──戦没画学生へのレクイエム』
 〈集英社新書〉2001年7月
 ISBN4-087-20098-1 \760(税別)
杉崎貴英 

 上田市の高台に、戦没画学生の遺した絵を展示する「無言館」がオープンしたのは1997年夏のこと。当時はマスコミがこぞって報道し、著者のいう“無言館フィーバー”の観を呈していたから、御記憶の向きも多いのではないだろうか。
 著者は長年、近代日本の夭折画家を追い、彼らの作品を展示する信濃デッサン館を
0年営んできた。戦争体験をもつ洋画家野見山暁治氏とともに始めた「戦没画学生巡礼」の旅が、やがて「無言館」構想に至ったという。本書は、開館5年のあいだに起こった出来事、投げかけられた言辞を通じて、著者が「自分と『無言館』との距離について」足元をみつめなおした手記である。
 博物館/美術館学に絡む内容としてはやはり、志半ばで戦没した画学生たちの絵を「遺品」とみるべきか「作品」とみるべきか(著者はどちらにも属さない中間項として「遺留品」とも語る)、そして無言館の主役は「戦争」なのか「美術」なのかという、著者の葛藤が挙げられよう。それは狭義の「博物館」と「美術館」との区別と対応するかに思われるものの、絵をとりまく様々な生々しさの前に、それは「微妙な問題」となって横たわり、あるいは世論とのズレを生む。戦争体験をもたない著者の「後ろめたさの美術館」という呟きは、ある意味で本書の基調とさえなっているかのようだ。しかしこうした「アンビヴァレンツ的状況」に対し、若い世代からの意見が著者に教えたという“青春美術館”というあり方は清々しい。また、寄付金に襲いかかった「贈与税」問題とその打開の顛末も述べられるが、それはかえって「匿名立の美術館」の可能性を示唆する結果をもたらしているように感じられた。