絵巻について基礎知識を得られる本といえば、奥平英雄氏に好著『絵巻物再見』(角川書店)『国宝 絵巻』(保育社カラーブックス)があったが、今や絶版。「語り」と絵との関わりを概説する武者小路穣『絵巻の歴史』(吉川弘文館)は現役だが、より美術史的な入門書としてはカラー図版主体の本書を挙げたい。ジャンル別に全12冊からなる作品一点ごとにカラー図版を掲げ、コラムの形式で内容や造形上の特色を紹介する本シリーズは、「走る筆線」「季節と物語の呼 応」「白描の清楚な美しさ」というように見どころがフレーズで提示され、エッセイに似た語り口ながらも充実した解説が付されていて親しみやすい。他の巻と違う点は、概説を問答形式によっていること、それから絵巻独自の事情として、 図版では作品の全体像がうかがえないことであろうか。しかしそれは実際の展覧会場でも同じこと。名作をダイジェストで通観でき、鑑賞のよき道しるべとなる一冊である。
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