秋山光和『王朝絵画の誕生「源氏物語絵巻」をめぐって』〈中公新書〉
 中央公論社 1968年 品切
 ■絵巻を考える
杉崎貴英 

絵巻の遺品のうち最も著名なものは、二千円札のデザインにもなった国宝[源氏物語絵巻](五島美術館・徳川美術館ほか分蔵)だろうか。戦後のやまと絵研究を推進してこられた著者による本書は、かの名品についての実証的研究をはじめとする王朝絵画論の大著『平安時代世俗画の研究』(吉川弘文館、1964年)のエッセンスがこめられた一般書である。 顕微鏡観察やX線写真によって「作り絵」の技法が、文献と遺品の再検討によって「やまと絵」概念とその制作の実態が明らかにされてゆく過程は、名品からさまざまの証言をひきだす美術史学の魅力をも伝えてあまりある。「あとがき」にある、夕暮れの徳川美術館で絵巻を観た際の不思議な体験も興味深く、名品の奥行きを読者に感じさせる本書に趣を添えている。
なお源氏物語絵巻をはじめとする物語絵については、池田忍『日本絵画の女性像─ジェンダー美術史の視点から』〈ちくまプリマーブックス120〉(筑摩書房 2000年ISBN4-480-04220-2 1100円〔税別〕)など近年の成果に見逃せないものが多いが、絵巻に限定されないジャンルでもあるため改めて機会を設けたい。