【絵巻を楽しむ】
杉崎貴英 

□宮次男編著『絵巻と物語 中世ドラマの舞台』〈ART IN JAPANESQUE〉 講談社 1982年 品切
□高畑勲『十二世紀のアニメーション──国宝絵巻物にみる映画的・アニメ的なるもの──』
徳間書店 1999年 3600円+税ISBN: 4198609713
 絵巻はしばしば漫画や映画、アニメと比較されてきた。それは安易な日本文化論に陥ってしまうことも多かったのだが、ここでは絵巻の楽しさをとらえなおした二書を挙げよう。前者は編集工学の松岡正剛氏の手にかかるシリーズの一冊で、「伴大納言絵巻」を切り貼りによって劇画仕立てとした綴じ込み付録が面白い。また後者は、スタジオジブリの監督による、院政期絵巻の画面の構造を作り手の視点からときほぐす挑戦。「カットバック」「アイリスイン」などといった用語の駆使に抵抗を感じる向きもあるようだが、このような映画の概念の応用は美術史学者である奥平英雄『絵巻の構成』〈アトリエ臨時増刊、1940年〉にすでに見られる。高畑氏の成果はそれをより徹底させた試みとして評価すべきであろうし、また絵巻の繰りひろげ方についてなど、新たな解釈が多く提示されているのも注意をひく。国文学や文化人類学からの絵巻研究で目につくような恣意的・予定調和的な読解に比べれば、絵巻の論理にのっとった画面構成の解釈はずっと説得力あるものに思われるが、いかがであろうか。なお高畑氏の論は、千葉市美術館で『絵巻物──アニメの源流』(1999年)と題した展覧会としても開催されている。