【絵巻をくりひろげるー巻子本】
杉崎貴英 

□『国宝 鳥獣戯画巻』四巻(便利堂による縮小複製) 各3900円+税
国宝や重文を手にとることが叶わないなら、たとえレプリカでも、巻子本の体裁をなした絵巻をくりひろげることで体験できる「絵巻のよさ」はあるはずである。すでに戦前から、大和絵同好会や芸術資料刊行会による巻子装の絵巻複製・出版は行われているのだが、すでに絶版である上、古書価もかなり高いのがうらめしい。これは京都国立博物館などのミュージアム・ショップで買える商品。美術印刷の老舗・株式会社便利堂が誇るコロタイプ印刷の技術によっており画像の質は高い。同社は他にも[信貴山縁起絵巻]や[地獄草紙]、また雪舟の[山水長巻]の縮小巻物も商品化している。すでに記した千葉市美術館での展覧会では、同社の『国宝 鳥獣戯画巻(甲巻)』(58000円+税)などの原寸大複製を用いて絵巻体験コーナーが設けられ好評であった。
なお福井県立美術館編『近松の六情展 幸若・又兵衛・写楽の系譜』(1991年)は、なんと巻子本で制作された展覧会図録。この例をみない体裁は、岩佐又兵衛えがく絵巻の躍動感をカラー図版により効果的に伝えている。