【絵巻にまみえる】
杉崎貴英 

□淡交社企画編集部編『日本の美術館と企画展ガイド '02-'03.3』
淡交社 2002年 1800円+税 ISBN:4-473-01902-0
 以上2号にわたり、メディアを介した絵巻体験の可能性を探りながらブックガイドをすすめてきた。しかしやはりガラス越しなりとも実物に接したいものである。数年前から年度明けに刊行されている本書は、そうした際にも強力な味方となろう。また東京国立博物館(www.tnm.jp/)・京都国立博物館(www.kyohaku.go.jp/)・奈良国立博物館(www.narahaku.go.jp/)など所蔵・寄託の絵巻を常設展示している館のHPも見逃せない情報源である。
 すでにふれたサントリー美術館の『国宝 信貴山縁起絵巻』展でのこと。ケースに全巻が拡げられた「尼公の巻」に、ガラス面をびっしり埋める入館者の列に連なってまみえた。絵巻を繰るのではなく見る側が歩くという状況からして、無論本来の鑑賞法ではない。しかし褪色した木々の緑の痕跡を見いだしながら、連続画面につぶさに描き出された旅路をたどったひとときには、さすがに原本ならではの味わいがあった。そしてもう一つ──すでに「飛倉の巻」や「延喜加持の巻」の展示期間は終わっていたのだが、それら2巻が持ち味とするスピード感は、あの混雑のもとでは味わえなかったかも知れない──絵の中の時間と見る側の時間が重なりあうという絵巻の特質、それから、展覧会での絵巻体験の難しさについても思いめぐらしたものである。