Oxford University Press出版のシリーズVery Short Introducitionsの邦訳版〈一冊で分かる〉シリーズの一冊として、岩波書店から2006年に出版された、ダナ・アーノルド著『美術史』です。
原題Art Historyは、美術史学であり、「美術史学とは何か」を初学者に分かりやすく解説するという目的で書かれています。
本来ならば全体を紹介すべき所ですが、章立てと第1章のみを簡単に紹介したいと思います。というのも、本書の一番の特色が章構成や図版の使用方法にあり、また、第1章に本書全体のテーマが縮約されているからです。
まず、目次と簡単な要旨を挙げておきましょう。
1 美術史学とは何か(美術史学の領域を明示)
2 美術史を記述する(美術史学の歴史)
3 美術史を提示する(美術作品の展示)
4 美術史を考える(近代思想と美術史との関係)
5 美術を読む(具象芸術の意味の理解とはなにか)
6 美術を見る(作品の材料や技法について)
用語解説
御覧のように、同様の主旨による類書にありがちな、編年体で美術史学の歴史を語るという構成を採っていないのです。おかげで、読者は、近年の美術史学を考える上で欠かせないヴィジュアル・スタディやジェンダー論といった概念とかなり早い段階で出会うことになります。
「1 美術史学とは何か」で、「鑑賞」、「批評」、「鑑定」の違いや、美術史学とヴィジュアル・スタディの領域の違いが明解に述べられていることも、美術史学の初学者にとってありがたいところでしょう。
さて、構成とならんでもう一点特徴的な点が本書における図版の使い方です。本書はソフトカバーB6サイズ、本文150ページというフォーマットと分量ですから、図版は22点に限られ、わずかな作例しか紹介されていません。しかし、それらは本書で何度も参照され、その度毎に、様々な視点で読み解かれ、それによって、読者は美術史学が扱う様々な問題を知ることができるようになっているのです。特に「1美術史学とは何か」で開示される四作例の分析は、続く章で取り上げる問題の準備となっており、読者は、作例を通して、具体的なかたちで美術史学の幅広さに触れることができるでしょう。
さて、本書には末尾に参考文献が挙げられており、幸い、その多くが邦訳のある文献なので、本書をイントロダクションとして、 美術史の個々の問題に対する理解を深めていくことができるでしょう。
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