本書は、日本美術史を学ぼうとされる方は、最初に読まれる本なのではないかと思います。かく言う私も、大学受験二次試験の対策に、まずこの本を読むことから勉強が始まりました。第一章の先史・古墳時代から、第十一章の現代まで、まず時代の流れを概説してから、作品の解説へと入っていく構成は、先のご紹介にもあったように、歴史の流れと美術をリンクさせるには、非常に役に立ちます。
しかし、いったん概観がつかめてしまうと、どうも二度、三度と読み直すことなく、必要事項の確認に使用する程度にとどまってしまっている方も多いのではないでしょうか。また、私のような読書の苦手な人間にとって、通史を頭に入れるためだけに読んで行く、となるとちょっとした覚悟が必要です。
そこで提案ですが、既に本書を読まれている方も、これから読まれる方も、ここに出てくる作品を形容する際に使われる言葉を、ピックアップしながら読んでみるのはいかがでしょうか。
例えば、p45「唐招提寺の鑑真像《V-13》は、(中略)静かに瞑目して禅定に入る像主の姿が、そのまま克明に写し出されて、迫真の効果を収めている。」という一文。鑑真像が、「克明」「迫真」という言葉で表現されています。あるいは、p120「唐獅子図屏風《[-7》の豪快な作風は、見る者を圧倒する迫力がある」と言う時、狩野永徳の唐獅子図屏風には、「豪快」「迫力がある」という言葉が用いられています。
作品を見た時に私たちが受ける「感じ」。これを言葉で言い表すのはなかなか難しいものです。どんな作品の「感じ」が、どんな「言葉」に結び付けられて語られているのか。日本美術史の標準的な作品でこれをおさえておけば、新しい作品に出会った時に、使う言葉がおのずと定まってくるのではないかと思います。
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