「ニューアート・ヒストリー」という言葉を御存知の方も多いと思います。よく知られたところでは、例えば、フェミニズムの方法論を取り入れて、今までの美術史を語り直す試みなどが挙げられます。このような従来の美術史を再考しようとする潮流が日本で紹介され始めた頃の著書として、
ジョン・バージャー『イメージways of seeing』(伊藤俊治訳、PARCO出版、1986年、ISBN 4-89194-124-3、定価2400円)
があります。多くの本/論文において引用されていることからも、この本が、芸術作品に対して重要かつ新たな認識の提示をしていることが伺えます。
本文は、絵画の複製にまつわる議論に始まり、女性の裸体を描いた絵画、さらに、油絵という絵画形式が孕む問題や、広告といったメディアの性質についての話題が続きます。特に、伝統的な女性の裸体画について語った第三章は、興味深い主張がなされていることで有名です。それは、女性が一方的に男性から見られる存在というのではなく、女性はその男性の眼差しを内在化させて、自分自身をも見る対象としてしまう、という主張です。これは今までの、単に女性は見られる側で、男性は見る側である、という考え方に新たな視点を取り入れたものであるといえるでしょう。
油絵に関しては、購入することのできるものを本物らしく描くことが可能な油絵技法が、ブルジョワジー達の欲望を自己満足的に満たすための格好の技法であったことなどが語られています。これなども、「芸術作品」を生みだすための一技法としての語り方から、それが孕む政治性に踏み込んだ、意欲的な主張であると思われます。
本書では、バージャーが書いた本文だけではなく、後半に訳者の伊藤俊治氏が、「見ることのトポロジー」と題して、遠近法から写真の誕生、美術館という場が孕むイデオロギーや、博覧会、広告、CGに至るまで、様々な素材を駆使し近代の視覚概念について論じられています。紙面の下部には、重要な論考の一部が引用されており、断片的ではありますが、その内容を掴む糸口になるかと思われます。是非一読されることをお勧めします。
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