マルコム・バーナード著『アート、デザイン、ヴィジュアル・カルチャー 社会を読み解く方法論』
熊倉一紗 

今回ご紹介したいのは、マルコム・バーナード著『アート、デザイン、ヴィジュアル・カルチャー 社会を読み解く方法論』(永田喬/菅靖子訳、アグネ承風社、2002年、ISBN4-900508-84-5、定価2900円+税)です。

タイトルに「ヴィジュアル・カルチャー」と付されているように、本書は「ヴィジュアル・カルチャー論の性質、機能と重要性の定義、その研究に有利な課題、アプローチの方法を示唆し提案」(7頁)することを目的として書かれています。近年、その存在が認知されはじめ、美術・芸術への新たなアプローチとして注目され始めているヴィジュアル・カルチャー・スタディーズですが、それが一体どのような研究方法なのか、そもそもヴィジュアル・カルチャーとは何なのかといった疑問にこたえる構成となっています。

まず、第一章では、「ヴィジュアル・カルチャー」という用語を形成する「ヴィジュアル」と「カルチャー」のそれぞれの定義づけを行い、両者の言葉が持つ長所と短所を明らかにしています。第二章では、ヴィジュアル・カルチャーの研究方法がどのようなものであるのかが既存の学問領域である美術史やデザイン史との検証を通じてなされています。第三章から第七章までは具体的、個別的な対象に対しての応用例が示されます。それぞれを見てみますと、例えば、芸術家やデザイナーが生産プロセスの諸制度――クラフト・ギルドやアカデミー――などとどのような関係をむすんでいたのかという生産に関わること(第三章)、また、芸術やデザインの消費の場である市場、あるいは観者といった消費する者と制作者がどのように関
わっているのかといったことについて(第四章)。あるいは、視覚的な記号(sign)とメディアによって「文化が可視化」される方法を問い(第五章)、芸術とデザインをそれぞれ「記号システム」として分析しようと試み(第六章)、芸術とデザインの類型を分類し(第七章)、最後にヴィジュアル・カルチャーの役割や機能について包括的な議論を行っています(第八章)。

本書では、ヴィジュアル・カルチャー・スタディーズが多様な学問領域を横断する「学際的性格」を有するように、様々な分野や方法論を駆使して様々な視覚的イメージについて論じています。それは、一つのものの見方や考え方、従来における形態や様式分析といった方法に偏らない/拘泥しない方法として、読者に対して新たな視角を与えるものといえるでしょう。

本書の特徴としては、デザイン一般に対して多く言及がなされていることが挙げられます。
特に、デザインに興味をもたれている方にはお勧めです。また、ジョン・A・ウォーカー、サラ・チャップリン『ヴィジュアル・カルチャー入門』(岸文和他共訳、晃洋書房、2001年、ISBN4-7710-1254-7)は、本書と同じようにこの学問潮流の入門編として書かれた本です。今回紹介したものと似た様な構成をとっていますが、こちらはより専門的用語の詳しい説明がなされていると思います。