ジョン・A・ウォーカー『デザイン史とは何か――モノ文化の構造と生成』
熊倉一紗 

今回は、前回の投稿でお勧めした『ヴィジュアル・カルチャー入門』の著者である、ジョン・A・ウォーカーのもう一つの翻訳書をご紹介したいと思います。

ジョン・A・ウォーカー『デザイン史とは何か――モノ文化の構造と生成』(栄久庵祥二訳、技報堂出版、1998年、ISBN4-7655-4219-X)は、「はじめに」において著者自身が述べているように、「デザイン史を初めて学ぶ人に対し、水先案内人のような役割を果たすこと」(3頁)を目的として書かれています。先日紹介させていただきました『アート、デザイン、イデオロギー』においては、デザインはヴィジュアル・カルチャー研究の素材/対象として取り上げられていたのに対し、今回紹介する本書の方は、「デザイン史」という学問分野そのものを研究対象として取り上げています。

本書では、入門書という性格に相応しく「デザイン」という言葉、概念についての説明や定義づけがなされています。しかし本書の主眼は「デザイン史」という研究方法がどのようなものであり、そこで取り上げられているのはどのようなテーマなのか、あるいは、デザイン史研究が取り組む方法論には一体どのようなものがあるのかという「デザイン史」自体を分析、研究の対象として検証している点にあります。つまり、言葉や概念だけの説明に留まることなく、デザイン史という学問分野がもつ制度的な問題やイデオロギーについても批判的な問いを投げかけていると言えるのです。

勿論、一つ一つのテーマや概念が、詳細かつ丁寧に説明されていることから、「デザイン史」研究のための辞書的な使用法も可能です。デザインに関わることだけでなく、生産・流通・消費に関する理論から、歴史記述に関する説明までもなされていて、コンテクストや「史」を語ることとは一体何なのかという根本的問いにこたえるものともなっています。

著者のウォーカーは、実に様々な観点からデザイン/デザイン史を語り、論じ尽くしているのですが、それは、デザインそのものが芸術や商業、美術史や経済学、あるいは芸術作品や使用されるモノといったように幾つかの領域を内包している所以だと思われます。デザインが持つ性格や可能性の豊かさを再考することにもつながりそうです。