こんばんは。芸術学コースの杉崎です。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−− ■『中古文学』第79号〈学会創設40周年記念号〉 2007年6月 中古文学会(http://wwwsoc.nii.ac.jp/chu-ko/)発行 −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−− □記念シンポジウム(2006年度秋季大会にて) 「〈中古文学〉の将来 研究・学会・社会」 −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
《中古文学》、つまりは古今和歌集とか伊勢物語とか源氏物語とか、 とにかく大学の学科でいえば芸術学ではなく、 国文学科(日本文学科)のあつかう領域です。 しかし最近では、 日本美術史研究と国文学研究の相互乗り入れもあるもので、 私も雑誌の最新号が出れば目を通す習慣をつけています。 さて上記のシンポジウム記録には、 基調報告として国文学以外の、 次の2編が収められています。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−− □佐野みどり 「対象と方法─美術史の課題─」 【構成】 はじめに 美術史学の現況 パレルゴン 物質性への帰還 −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−− □東野治之 「文学と史学の間─平安時代像の再構築─」 【構成】 一 はじめに 二 時代区分としての中古 三 学際的研究の問題点 四 平安時代史研究と中古文学 五 おわりに −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
佐野氏は主として平安時代絵画史や物語絵画史、 東野氏は日本古代史(飛鳥〜平安)がご専門です。
一読して収穫だったのは、 佐野氏の発表では、 それぞれの研究領域の現在の/これまでの動向が、 東野氏の発表では、 学際的研究・共同研究はどうあるべきかが、 国文学という、異分野の学会においてだからこそ、 明快に提示されていることでした。
内容の要約に代えて、 注意を惹かれた部分をいくつか抜粋して御紹介します。 −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−− ▽佐野氏
「近年の美術史研究のもっとも大きな変化は、 対象の格段の広がりである」
「(昨年刊行の論文を例示して) おそらくこのタイトルは、 十年前であれば美術史研究とは思われなかっただろう」
「このような造形作品の生成を照射する研究、 イメージの議論などが豊かな成果を挙げている一方で、 とりわけこの1,2年、 〈様式研究〉が再び盛んになってきたことも注目される」
「いかに文献学と感性の結合が可能か、 を追究した日本の戦後美術史学第一世代。 その研究蓄積をある種の閉塞として、 開かれた美術史、大作主義へのアンチテーゼ、 周縁の回復を目指した第二世代。 そして造形を表象の意味世界として議論する第三世代。 粗雑なまとめだが、 二十世紀後半の(日本)美術史学の流れを このように総括するならば、 これら若い世代による(中略−研究成果)は、 美術史学創成期を私に想起させる。 ここには〈様式〉や〈主観〉に対する躊躇いはない」
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−− ▽東野氏
「(学際的研究・共同研究を行う場合) 他分野から期待されるのは分かりやすい結論であり、 なかなかその分野独自の考え方や分析方法にまで 踏み込んだ議論にはなりにくい」
「(自分が奈良国立文化財研究所にいたときは) 他分野の思考、分析がどのようなものであるかを、 折に触れ具体的に垣間見ることができ、 これはその分野での結論や成果を 批判的に理解する大きな助けとなった。 真に実りある学際的研究や共同研究は、 他分野の手のうちを知ることから始まるのではあるまいか。 またその中で感じたことは、 その学問独自の概念や方法の重要性である。 それに固執することは、 開かれた研究を模索する上に障害とはならず、 そこに立脚した結論こそ、 かえって全体の中でも意義を持つ」。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
|