【西洋美術史 方法論を学ぶための基礎文献1】
大野陽子 

今回、ご紹介するのは、美術史学の歴史を扱った文献です。(『芸術学の手帖では「芸術学・美術史の方法論」という項目に挙がっています。)

美術史をはじめて学ぶ方のなかには「自分は美術の歴史を学びたいのであって美術史の歴史なんて学ぶ意味あるの?」と思われる方もあるかもしれません。しかし、美術史もまた歴史記述であり、そして、歴史記述というものは必ずしも客観的ではなく、特定の思想的背景の影響を意識的にせよ無意識的にせよ受けているものです。著者がどのような立場に立っているのか、またその方法論が美術史の歴史のなかではどのように位置づけられているのかを知っておくことによって、文献の理解度が(特に初学者にとっては)増すことにもなります。

今回、紹介する、V.H. マイナー『美術史の歴史』北原恵ほか訳 ブリュッケ 2003 年(ISBN 4-434-02770-0 3990円)では、プラトンのイデア論にはじまって21世紀の美術批評理論までの「美術史」という学問の歴史が3部構成で紹介されています。
第1部「アカデミー」では、「キリスト教的美術解釈」や「ギルド」といった中世の組織から、芸術を研究する場としての近代的な「アカデミー」の成立までの歴史が、第2部「芸術とは何か」では、古代、中世、近世において「美術」とは何であったのかが概観されたあと、第3部「方法論の出現と美術史におけるモダニズム」において、18世紀における美学の登場、19世紀における「美術史学」の誕生、そして、20世紀の批評理論や方法論が語られています。

ポイントン『はじめての美術史』や 以前、私が紹介させていただいた(2007年9月29日)アーノルド『美術史』に比べると、 クロノロジカルな項目分けされた同書の作りはいかにも教科書的といえ、読みやすさや手軽さは、前掲2書に劣るかもしれませんが、第3部において、20世紀末に「ニューアート・ヒストリー」の方法論がどのように成立していったのかがきちんと解説されているという点で、21世紀初頭に美術史を学ぶ者にとって必読の文献と言えましょう。