イタリアのデザイン
 ―アレッシィ社の場合─
 2002年度卒業論文要約
飯田めぐみ 
(29951023)

1980年代のバブル時に起こった日本での「イタリア・ブーム」は、バブルが弾け、景気は悪化の一途をたどっている現在においてもその人気は衰えていない。
この人気は、1980年代のイタリアにおける「ポスト・モダン」の幕開けも影響している。新しい方向を見つけ出すために暗中模索していたデザイン界は、この動きに飛びついた。ポスト・モダンの建築家として名を馳せたアレッサンドロ・メンディーニが手がけたアレッシィ社の製品は世界的にヒットし、「ポスト・モダンのアレッシィ」という国際イメージを定着させた。
北イタリア、ピエモンテ州に本社工場を持つアレッシィ社は、1921年、施盤工であったジョバンニ・アレッシィ(Giovanni Alessi)によって設立され、息子のカルロ(Carlo Alessi)、孫のアルベルト(Alberto Alessi)へと引き継がれたアレッシィ一族による会社であり、時代ごとに特徴を持っている。

第一章 イタリアのデザイン企業

イタリアは、古代ローマ時代に優れた文化を持っていたが、経済は国民国家形成の経緯に負うところが大きく、工業化されたのは20世紀初頭であった。イタリア人の民族性も影響し、大企業による大量生産ではなく、機械は使用するが手仕事な芸術的部分を重視した製品を製作している。大部分が専業メーカーのため、経済環境の変化にすばやく積極的に対応すると共に独自の技術、品質、あるいはデザインをもとに特徴ある製品メーカーとして生き残りをはかっている。

第二章 アレッシィ社の製品の特徴

a. ジョバンニの時代(1920年代〜1940年代前半)
銅、真鍮、洋銀を材料としたキッチン用品や家庭用品は、クライアントの注文をうけて生産するもので、職人芸的な商業方針であった。
初期の頃は、<ティー&コーヒーセット>を主に製作していたが、息子のカルロによって製品に「デザイン」が取り入れられた。

b. カルロの時代(1940年代後半〜1960年代)
社外デザイナーとの協力関係を樹立していく。ステンレスの導入により工業を感じさせる製品が多い。戦後の需要に対応するため、機械設備を倍にして大量生産を行うことにした結果、輸出先が拡張され、職人的経営から国際的な真の企業へと変わった。

c.アルベルトの時代(1970年代〜現在)
「マルティプリケイティッド・アート(増殖する芸術)」を宣言し、本物の芸術作品を手ごろな価格で大衆に供給することを目指した。
ステンレスによる形や面を持つ製品の作成や磁器の登場(70年代)、「ポスト・モダン」というイメージを維持するためにKing-Kongファミリーなど今までと異なる雰囲気のものが登場(80年代)、樹脂の開発で多彩色の製品が登場(90年代)と時代ごとに特徴がある。
現在は、@社内にデザイナーをもたず外部のデザイナー(建築家が多い)に全て依頼、A過去のデザインの復刻版を製造、B実験工房的性格を持つオフィチーナ・アレッシィの活動、CCAS(アレッシィ研究センター)及び、若手デザイナー達との活動など幅広い活動を行っている。

第三章  復刻版

本質的なモデルの変化がない家庭用雑貨は、古代の影響が強い。デザイナーにとって創造性のあった時代や歴史を知るための重要なプロトタイプとなるため、80年代後半から復刻版が作成されている。
クリストファー・ドレッサー(Christopher Dresser,1834-1904) は、アートの根源を手工業に求めた時代に工業生産や機械技術の重要性を強調した先駆的なデザイナーであったが、当時はアウトサイダーと見られ、長い間忘れ去られた存在であった。アレッシィ社はドレッサーの代表的作品である<シュガーボウル>を銀製レプリカ、ステンレス製レプリカ、多彩色合成樹脂と様々な素材で復活させることによって、アレッシィ社の考えを製品に反映させた。

第四章  まとめ

アレッシィ社は、3代目のアルベルトの時代により多彩な方向へと向かった。その一つに復刻版の製作が挙げられる。ドレッサーの<シュガーボウル>を数種類の素材で制作したのは、@ドレッサーの偉大さを多くの人に理解してもらうこと、A130年以上経ても変わらない芸術作品の素晴らしさを実感として分かってもらうこと、B過去の優れたものに対する敬意、C芸術とはあらゆる人々が実際に自分の生活に取り入れることができるいうことからだろう。
イタリアは地域の多様性から人々の「自由」が重要視されてきた。日常的なものが非日常的に、普通のものを普通でないものにするところに人々は魅了されるのである。
過去と未来を含め、様々なものが共存という点がイタリアの特徴であり、アレッシィ社が行った<シュガーボウル>の復刻版は、その特徴を如実に物語っている。日用品のデザイン=建築の縮小版といわれるが、建築=国家の縮小版である。従って、日用品のデザイン=国家の縮小版であり、アレッシィ社の製品はまさに多様性を持った「イタリア」という国家の縮小版であるといえよう。