拒否をする意匠
 社会の中のバリアデザイン
 2002年度卒業論文要約
青柳千亜紀 
(30051509)

■はじめに

「ある行為を、望ましい予知できる目標へ向けて計画し、整えるということが、デザインのプロセスの本質である。(中略)デザインとは、意味ある秩序状態を作り出すために意識的に努力することである。」(デザイン学者 ヴィクター・パパネック)住環境におけるデザインの機能およびその在り方について、パパネックの定義を引用した上で言及。現在とみに叫ばれる「ユニヴァーサル・デザイン」も又、すべてのあらゆる人間に対し、こうしたパパネックの言う秩序形成を推進する概念であると言える。殊に都市というカオスにおいて、その状況を整理する役割を大きく担うデザインはすべからくユニヴァーサルでなくてはならない。しかしながら現状で、デザインはそうした機能を果たしているのであろうか。いかに続く1〜終章への序とする。

■ 1章 バリアデザイン

関東を代表する野宿者居住地域、山谷。住居を失った野宿者が密集するこのエリアを実例として取り上げ、デザインが本来持つべき要素「ユニヴァーサリティ」が機能しているかを検証する。野宿者の居座りを回避すべくデザインされた空間を形成しているこのエリアにおいて、ユニヴァーサリティは秩序形成を目指しながらも、すべての人間に対しユニヴァーサルに働きかけてはいない。こうした矛盾の発生、そして社会におけるデザインがユニヴァーサルでなければならないのにも関わらず、身体を拘束し、拒否するデザインが溢れる現状について論述する。

■ 2章 バリアとユニヴァーサリティ

昨今デザインについて語る上で不可欠な概念「ユニヴァーサル・デザイン」。アメリカのロナルド・メイスによるこの思想とはいかなるものか、その出自、理念、日本におけるその受容について解説。更に、「すべての人が人生のある時点で何らかの障害を持つ」という事を発想の起点としているユニヴァーサル・デザインの包合する「バリアフリー」という考え方について言及。そこではバリアとは何らかの運動や行為をブロックし、円滑に進むべき日常生活のフローを妨害する「障壁」として考えられるものの、一面においてはプライバシー等のような保護機能を持つ「防壁」としても機能している。こうしたバリアの持つ二面性について考察し、秩序付けられながらもより自由でユニヴァーサルなバリアフリーな社会を形成する為に敢えて設けられるバリアもあるという現状を認識する。

■ 3章 誰の為のバリア、何の為のバリア

公的空間の最も代表的な例である公園について、その機能及び在り得べき姿について概観する。そして現在の我が国で公園が直面している諸問題−管理規制や住民苦情、騒音や事故などにより、本来の機能を失ったデッドスペースとなっている現状について言及し、その現象根幹には人間を拒否するデザインが大きく関与している事実を認識した上で、パブリシティにおけるデザインの困難さや社会情勢との矛盾を指摘。更に比較対象として海外のケース、ここでは英国を例に挙げ、公園の機能と在り方を概説。公園という空間が果たす役割を守る為に英国が行っている規制や対策についても言及し、バリアというものをいかにデザインして行くか、日本における考え方とコントラストさせ、二国の各々のアプローチを比較しながら、ユニヴァ−サリティやパブリックとは何なのかを考察する。

■ 終章 様々なバリアをめぐって・デザインの為し得るもの

バリアフリーな社会を形成する為にあえて設けられるバリアについて考察した2章から立ち返り、ここではバリアの為に設けられるバリアフリーとはいかなるものか、前章で言及した英国のケースから考える。更にまとめとして、現在の山谷において、デザインが本来在るべきユニヴァ−サリティという要素を失い、パパネックの言う秩序形成の推進から遠ざかって機能していることを指摘し、我が国のパブリックスペースにおけるデザインが望ましい状況を形成していない問題を提起する。