美術館の広報活動について
 ―美術館広報の現状と展望―
 2003年度卒業論文要約
那須晶子 
(30051406)

はじめに
 独立行政法人制度の導入により、国立の美術・博物館は評価委員会の評価を受け、入館者だけではなく収支バランスもチェックされた。百貨店美術館や私立美術館では閉館が相次ぐなど、その存在価値が問われる時代となってきている。
 本論文では美術館の現状を考えながら効果的な広報活動の方向を探るものである。
第1章 美術館・博物館の現状と評価
 国立の美術・博物館は平成13年度4月、独立行政法人として国から独立した。基本方針に基づいて立てられた中期目標・計画は、その達成度を外部の専門家で構成する評価委員会によって評価される。しかし美術館の総評は数値だけでなく、多面的に判断してく必要があると思われる。
 入館者数が目標に達成しなくても、展覧会の内容がよければ評価されなければならないし、美術館評価は結果を見ることで現状を把握し、評価の仕組みを理解した上で、それをツールとして使っていくことが必要と考える。
第2章 美術館の広報・宣伝活動
@マスコミ関連企業との共催展
 入館者数が上位に入っている企画展のほとんどが巨大メディアとの主催・共催によるものに集中しているといえる。マスコミ関係との共催により、制作費、広告費負担の軽減、メディアとのリンクにより広報の山場を作ることができる。
 第三者による記事によって告知される広報で得られる「客観性」と、有料の告知をする宣伝によって実現する「主体性」の両方を、バランスよく組み立てる事が効果を大きくすると考える。
A広報・宣伝計画
 プレスリリースの作成、ポスター・チラシの制作、メディア広告、交通広告掲載等など広報・宣伝計画を立案する事により、無駄なく、効果的な広報活動を展開する事ができる。
Bポスターにおける広報効果
 展覧会を告知するポスターは、告知の内容を明確にし、統一したイメージをその他の宣材にも展開することで、効果を上げることが可能となり、場合によってはサブタイトルやキャッチコピーも有効である。
第3章 マーケティング・リサーチによる広報の展開
@アンケートでの来館者リサーチ
 さらに効果的な広報を実践するために、マーケティングリサーチを行うことで、ターゲット設定を行い、それを広報・宣伝展開にフィードバックさせる。
 来館者に対してアンケートを実施し、集計・分析する事で来館者の声を聞き、来館者の特徴をつかむ。「ミレー展」でのアンケート結果により来館者のリサーチを行う。
Aターゲットの特定
 広報活動の展開を立案する上で大切な要因の一つとして、企画の内容によって来館者層を想定する。ターゲット設定を行うことにより、その層にあった広報展開ができる。マーケティングを導入して効率の良い広報を計画していくことが必要であると考える。
B他展覧会(メディア主催展)との比較
 「ミレー展」と同時期に開催され、マスコミ関連会社との共催である「モネ展」との比較をすると、「モネ展」を新聞で知った、テレビで知ったという声が多かった。これはメディア提携事業の効果が大きく、テレビや新聞掲載の回数が増え、マスコミ関連会社とのリンクが効果的な広報を展開した結果と考えられる。
第4章 新しいメディア表現と課題
@ホームページ(HP)による情報提供
 インターネットが日常化し、情報収集が容易にできるHPは、ポスター・チラシとは違った訴求効果を期待することができる。美術館でのHPの開設は、近隣情報とのリンクなど来館者を促すための広報的な役割を果たすであろう。
 しかし、HP開設に際しての美術作品のデジタル化は、ネット上でのイメージと「ホンモノ」との画像の相違や著作権問題など充分な注意も必要となる。
A個人をターゲットにした広報展開
 HP開設に加えてメールマガジンなど個人に向けたダイレクトな情報発信は、アンケートの実施や意見・感想など、ウエッブを介して反応を受け取ることか可能となる。新しいメディアの広報展開の導入は美術ファンやリピーターに対して個別に情報提供をすることができ、今後の新しい広報手段となる。
おわりに ―これからの美術館における広報の課題―
 美術館は厳しい経営環境の中で、入館者数の獲得を目指す努力は必要であるが、行政や住民が持っている美術館に対する意識を変えることも必要であり、美術館から多くの情報を発信し、より良い利用方法を提供していかなければ、正しい社会的評価を得られない。
 美術館の広報活動では媒体により訴求効果の違いがあることを知り、マーケティングリサーチの定期的な実施により、来館者の動向、ニーズを知ることが必要である。そして新しいメディア表現を含めて広報・宣伝計画を立案することにより、広報・宣伝活動の目標を明確にしていくことができると考える。