市民が支えるミュージアム()地域を巻き込んで活動するボランティア
 自然博物館と協同する NPO法人と自然の会
角橋佐智子 
(本学修士課程修了生)

 前回紹介した北海道の美術館ボランティアとは一味違う、積極的に外に向かって出かけているミュージアムボランティアが「NPO法人 人と自然の会」である。1992年、兵庫県三田市に人と自然の共生をテーマにした兵庫県立人と自然の博物館がオープンした。同館が行ったボランティア養成講座の受講者たちが集まって、1994年にボランティアグループが発足、これがこの会の始まりとなった。
 兵庫県の教育委員会と県立姫路工業大学教員で構成されている同博物館は、教育研究活動が主体であった。ボランティアグループは「人と自然の会」と改称して、館だけではできない幅広い市民に向けた活動をしたいと思い出した。館を拠点にしながら、独自の活動範囲を広げていこうと、1999年にNPO法人格を取得、これで名実ともに館と対等の関係を確立した。ここで館と会は「協力協定書」を交わして、お互いの関係を確認しあっている。それには次のようなことを取り決めている。

@館と会相互の活動は、連携して協力し合う。
A会は館の内外の事業に協力支援する。
B館は会の活動に関して、館施設利用の便宜をはかり、職員が協力支援する。

つまり、両者は独立しているが、ボランティアは館を全面的にサポートするし、館も会の活動には場所も人も提供するという、強い協力関係の確認である。
ボランティア団体がこのような独立性を確保するまでには、会員の試行錯誤の積み重ねとともに、館側の研究員の自律したボランティアを育成しようという意向によるところが大きい。館側はボランティア要員の募集や養成事業までは行うものの、その後の活動についてはボランティア自身で考え決めて行くよう求めて自律を促したのである。それがボランティアを目覚めさせ、受身の姿勢から自律へと発展したと思われる。
同会の活動の主旨は、館の事業に全面協力しながら、市民に向けての「人と自然の共生」の啓発である。具体的な基幹活動は、@毎月1回の親子対象の体験イベント「ドリームスタジオ」の開催、Aテーマごとの自然研究サークル活動、B年1回の館をあげてのお祭り「ひとはくフェスティバル」などである。@の「ドリームスタジオ」は、会員自らが企画する催しである。会員は入会年度ごとに班をつくり、触れる標本資料などを用いた一般向けイベントを毎回開催している。Aの研究サークルは、現在13となり(みつばち研究会、花の会、里山クラブ、深田公園探検隊、クラフトクラブ、ミュージアムBOXクラブ、植物観察会、星の会、封入標本、エコ楽会、大人の探検隊、希少山野草会、フラワークラブ)、会員はそれぞれ興味のあるサークルに属して活動している。これには博物館研究員が指導にあたり、研究成果は館での展示や出版物として発表している。Bの年1回のお祭り「ひとはくフェスティバル」は、県全域を巻き込み、地域の企業も協賛して毎年3万人を集める大イベントである。ここで2002年に企画されたミュージアムボランティアや学芸員の全国交流会「ボランティアメッセ」は、その後も全国持ち回りで継続して開かれている。
 また、兵庫県独自の制度「トライやるウイーク」を受け入れて子どもたちの体験学習にも協力している。これは県下の中学2年生が1週間の実社会体験するプログラムで、博物館では毎年受け入れてきたが、99年から同会も独自に1グループ(6名)を引き受け、ミュージアムボランティアを実習させている。もともと同博物館は外へ向かう指向があったが、2001年から来館者を待つだけではなく、こちらから出かけて行く出前博物館「キャラバン事業」を始めた。これにも当然ボランティアは協力して外部とのつながりを強めている。最近では会独自でも市民講座や子ども会などから依頼があったり、地域からの委託事業が増え、活動範囲が益々拡大してきている。
人と自然の会は、地域の自然好きの人びとが集まって、現在会員は77名である。その内訳は、男女比はほぼ同数、年齢層は20歳代〜70歳代まで幅広く偏りがない。圧倒的に中高年女性で占められている美術館ボランティアとは異なる特色を示している。理事会、役員、事務局をはじめ、会員はすべて年間4000円の会費を負担して、無償の活動に参加している。ボランティアによる無償の働きと、館の協力体制が絶妙に絡み合い、みごとな相乗効果をもたらしている。館が主体で、ボランティアが補助に回るもの(館主催の講座など)、ボランティアが主催で、館が補助をする活動(研究サークル活動、ミュージアムフェスティバルなど)、お互いに持ち場を代えて呼吸の合ったパートナーとなっている。
同会は法人格を取得したことでより自律し、館や地域とのつながりだけに止まらず、全国のミュージアムとのネットワークを広げた。博物館を学習や自己開発のための拠点として存分に活用している。
 館側にとっても、会が自律することでサポートの負担が減り、館だけでは実現しにくい催しも、ボランティア主催で行うことで活動の幅が広がった。お互いが協力して積極的に外に向かって働きかけていくことで、結果として館のPRや自然科学の啓発に寄与するという、新しいミュージアムのありかたを生み出している。絶えず活動内容についての見直しや改革を行い、外に働きかけることで人びとの思いや要求を汲むことで、進化しつづけているミュージアムボランティア団体である