展覧会:永徳展&BIOMBO展

カテゴリー: 過去サイトの記事 |投稿日: 2008年6月11日

中野志保(本学講師)

この秋、関西で開催された下記2つの展覧会の感想をお送りします。

狩野永徳展 会期:10月16日(火)〜11月18日(日)、京都国立博物館

NHK日曜日術館でも特集され、連日大勢の入場者を得ていたようですね。永徳をはじめ、同時代の江戸狩野・京狩野派絵師の作品が並んでいました。永徳と言えば、歴史の教科書に必ずと言っていい程出てくる《唐獅子図屏風》や、国宝《檜図屏風》、《上杉本洛中洛外図》が有名です。

前二者を見ると、永徳の特徴は「豪快」と言い表せそうですが、《上杉本洛中洛外図》を見ると、洛中に生きる人々を非常に精緻に、また丁寧に描いていたのが印象的でした。まるでジオラマを見ているような面白さがありました。

今回、新しく発見したのは、《聚光院蔵花鳥図襖》、《花鳥図押絵貼屏風》といった花鳥図に描かれた鳥や虎などの動物がどことなく愛らしく、なおかつ絶妙なバランスの構図で描かれていることです。他にも人物を描きこんだ山水図(《仙人高士図屏風》等)がいくつか出品されていましたが、かなり謹直で真面目な感じに見えました。今回、私には、主題によって、画風が変わっているように思え、永徳自身の特徴は掴むにいたりませんでした。

永徳の時代は、まさに中世から近世へと移り変わる時。私は普段近世のモノを主に見ていますので、中世のイメージの見方について、まだまだ修行が足りないのだなと自省した展覧会でした。

BIOMBO展 会期:10月30日(火)〜12月16日(日)、大阪市立美術館

こちらは、東京のサントリー美術館で始まった展覧会が大阪市美に巡回してきたもの。「屏風」という形式の発生と展開、また、実際にどのように使われていたのかを紹介するという展覧会です。

興味深かったのは、実際に屏風を使用している様子でした。屏風は、絵巻や風俗画の情景描写のなかに書き込まれています。それによると、屏風はポータブルに空間を分けて小部屋を作り出すという役割だけでなく、出産や臨終、結婚といった人生の「儀式」にもその場を飾る(意味づけする)ものとしての側面も持っていたそうです。出産には、白地に胡粉で図柄を描く「白絵屏風」が、臨終の際には、屏風を上下逆さにして立てる「さかさ屏風」が使われていたということを初めて知りました。

他にも、朝鮮やオランダなどの外国と交流する際、将軍家が狩野派の絵師に描かせ、送らせた贈答品として、また輸出品として多くの屏風が海外へ渡ったことも紹介されていました。しかし残念ながら、これら海外へ行った屏風は殆ど現存していないそうです。

私が行った時には、近世以前のものはあまり出ていませんでしたが、なかでも出光美術館《日月四季花鳥図屏風》を見られたのは幸いでした。この作品は、日本美術史の授業で扱ってきたのですが、現物を見たのは初めてです。大和絵様式で、画面左右に樹木を配し、雉や鹿、桜、紅葉、菊といった四季の花鳥を描いたもの。全面に切箔や砂子、野毛など、様々な大きさの金箔・銀箔が散りばめられ、工芸的要素が強いと言われています。図録では、屏風をぴんと伸ばした状態で撮影しているため「平面的」に見えていましたが、実際に屏風を立たせると画面は屈曲した状態になり、物理的に奥行きが現れ、そして、視覚的にも立体的に見えてきます。この図柄と屈曲の絶妙な一致は、展覧会で屏風を見る醍醐味ですね。

全体の展示作品数は多いのですが、一回の展示数は少なく、展示換えの回数が多いので、ゆっくり、何回も足を運びたい展覧会です。


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