佐藤真理恵(芸術学コース教員)

墓碑彫刻(前350-325年頃)、ケラメイコス出土、アテネ、国立考古学博物館蔵

墓碑彫刻(前350-325年頃)、ケラメイコス出土、アテネ、国立考古学博物館蔵

かすかに秋の虫の音が聞こえてきたとはいえ、いまだ残暑厳しいみぎり、皆様いかがお過ごしでしょうか。 長引く悪疫蔓延により、この夏は各地の祭や行事が軒並み中止となりましたね。ここ京都でも静かな夏でした。また、皆さんやお身内のなかにはお盆でも帰省を見送った方が多かったことと思います。このように、親しい人にも逢えない状況が長らく続いています。 この状況下、人との接触を避けつつコミュニケーションをとる手段として、テレビ電話、リモート会議やリモート飲み会、オンライン授業などが活用されてきました。これらのツールを使ってみると、どんなに離れていようと、実際の対面に遜色ないほどの臨場感を味わうことができるため、働き方・人付き合い・学び方の可能性が格段に拡がったのは確かです。しかし、同時に、従来型の「対面」の意義もまた浮き彫りになってきたように思われます。

佐藤真理恵(教員)

遠矢射るアポロン、ニオビッドの画家作画のクラテル(部分)、前475-425年頃、パリ、ルーヴル美術館蔵

遠矢射るアポロン、ニオビッドの画家作画のクラテル(部分)、前475-425年頃、パリ、ルーヴル美術館蔵

 早いもので、七草粥を口にしてからもうひと月以上が経つ。このところ世間は新型コロナウィルスの話題一色であり、さながら「唐土の鳥」襲来の様相。  これまでにも人類は、ペスト、マラリアやコレラなど感染症の大規模な流行に遭遇し、そのたびに程度の差はあれ政変や社会の混乱が生じてきた。そしてまた、それら疫病を題材とした芸術作品もまた生まれてきた。  有名な例として、ルネサンス期にボッカッチョが草した『デカメロン(十日物語)』(1349‐1353年)は、ペストから逃れて郊外に籠ったフィレンツェの男女10名が10日間毎日各人一話ずつ披露した物語集という体裁をとっている。  いっぽう、美術に目を向けてみると、疫病はしばしば降りそそぐ矢として表象されてきた。あるいは、矢に射抜かれてもなお生きた聖セバスティアヌスはまた、ペスト除け聖人として信仰されたという。

池野絢子(教員)

図1:ジーノ・セヴェリーニ《母性》1916年、カンヴァスに油彩、92×65cm、エトルリア美術館、コルトーナ

図1:ジーノ・セヴェリーニ《母性》1916年、カンヴァスに油彩、92×65cm、エトルリア美術館、コルトーナ

 第一次世界大戦の前後から第二次世界大戦が始まるまでの戦間期、ヨーロッパの前衛芸術家たちの多くが、それまでの前衛的な画風を捨てて「古典性」や「伝統」の重要性を説き始める。作家のジャン・コクトーの著作に因んで、一般に「秩序への回帰」と呼ばれるこの傾向は、大戦によって生じた破壊と混乱のなかから、再び秩序を取り戻そうとした芸術上の動きであると理解されている。

佐藤 真理恵(教員)

イヴリン・ド・モーガン《トロイのヘレネー》(1898年)、ロンドン、ド・モーガン・センター蔵

【図1】イヴリン・ド・モーガン《トロイのヘレネー》(1898年)、ロンドン、ド・モーガン・センター蔵

 「世界三大美女」といえば、わが国に限っては、クレオパトラ、楊貴妃、小野小町が挙げられることが多い。しかし、より一般的には、小野小町の代わりにヘレネーという女性がランクインしているようだ。  ヘレネーとは、ギリシア神話に登場する、絶世の美女との呼び声高い人物である。それほど有名な麗人であれば、さぞ多くの芸術家が美の化身としての彼女の像を創造し讃美したかと思いきや、意外なことに、とくに美術の分野では、ヘレネー像の数は決して多くない。しかも、美術作品や詩、演劇、映画で描き出された彼女の容貌や人物像は、概ね共通した特徴をそなえており、ヘレネーのイメージは多分に均一化されているといえる。後述するが、ヘレネーには、金髪たなびく絶世の美女にして稀代の悪女、という固定観念が付きまとっているのである。

ボッチョーニの「アトラス」

カテゴリー: KUAブログ愉快な知識への誘い |投稿日:2018年9月25日

池野 絢子(教員)

図1:《若き巫女》の複製図版、掲載誌不明

図1:《若き巫女》の複製図版、掲載誌不明

 20世紀を駆け抜けたイタリア未来派のなかで、実践と理論の両面で一際注目すべき活躍をしながら、従軍中の不慮の事故が原因で早逝した芸術家、ウンベルト・ボッチョーニ(1882–1916)。そのボッチョーニが残した貴重な資料がヴェローナ市立図書館で再発見され、2016年にミラノのレアーレ宮殿、およびロヴェレートの近現代美術館で開かれたボッチョーニ回顧展で初めて一般に紹介された。

池野 絢子(教員) 「黄金のアデーレ」(2015年)という映画をご存知でしょうか。グスタフ・クリムトの描いた《アデーレ・ブロッホ=バウアーの肖像I》(1907年・図1)という絵画をめぐる物語です。金地の上に美しく着飾った女性が豪華で装飾的な技法で描かれた、クリムトの代表作の一つであり、大変魅力的な絵画なのですが、映画は制作経緯の話でも、クリムトの生涯の話でもありません。そこに描かれた女性アデーレと、その作品の所有者をめぐる物語です。

プラド美術館展

カテゴリー: お知らせ美術館・展覧会情報 |投稿日:2018年7月1日

加藤志織(教員)

(国立西洋美術館 正面入口横)

(国立西洋美術館 正面入口横)

 日本とスペインが外交関係を樹立して150周年になることを記念するプラド美術館展—ベラスケスと絵画の栄光—が、上野にある国立西洋美術館で今年の春に開催された。この特別展示の目玉は、副題に示されているようにディエゴ・ベラスケス(1599〜1660)の名作7点である。

古典という「根」

カテゴリー: お知らせ愉快な知識への誘い |投稿日:2018年6月9日

佐藤真理恵(教員)  はじめまして。今回はご挨拶代わりに、私の専門分野である西洋古典学(古代ギリシア)と絡めたお話をしたいと思います。  といっても、西洋古典学では主に古代の文献や史料を扱うため、一見、芸術学とは関係がないと思われるかもしれません。しかし、西洋の芸術にふれるとき、好意的にせよ批判的にせよ、そこに古代ギリシアや古代ローマの影響がみとめられない作品などおよそ皆無といっても過言ではありません。この物言いは、欧米の高等教育において長らく権威として君臨してきた(現在ではそれも黄昏を迎えていますが)古典学の思い上がりでしょうか。

池野絢子(教員)

ロヴェレート近現代美術館、2016年

ロヴェレート近現代美術館、2016年

 余計なもののない広々とした空間に、真っ白な壁。そこに絵画が一枚一枚、同じ高さに、適度な間隔を保って掛けられている。ギャラリーや美術館に通う人ならお馴染みの、いわゆる「ホワイト・キューブ」である。

加藤志織(教員)

 世界三大美術館の一つに挙げられることもあるエルミタージュ美術館の貴重なコレクションの一部を展示する企画展が、2017年の春から日本を巡回中です。まず3月中旬の東京を皮切りに、7月からは名古屋の愛知県美術館、そして10月からは兵庫県立美術館に移動して現在公開されている。その大エルミタージュ美術館展について紹介します。