前木由紀(芸術学コース教員)

 醜。醜いこと。醜さ。醜さを物語ること。どんなふうにして? この本でウンベルト・エーコは西洋文化における醜さをめぐる言説をおおよその時系列に沿って取り上げる。中世における「受難・死・殉教」、ルネサンス期の「怪物と予兆」、19 世紀の「不気味な者」などの側面を切り取りながら、それらをテクストの蒐集と分析によって解説してゆく。それは西洋史における醜さの「大全( スンマ)」である。(エーコがトマス・アクィナス研究から出発していることと、この著述のスタイルとの関連を勘ぐらずにはおられない)。