拈華微笑 2022 (1):作品を「よく見る」こと-造形に着目して

カテゴリー: 『雲母』についてコースサイト記事 |投稿日: 2022年7月10日

田島恵美子(芸術学コース教員)

造形の本 ※筆写所有の造形に関する本、左は以前の通信教育部テキストです。右はおもしろかったので参考までに。

 7月に入り夏の到来を実感する今日この頃、みなさま、いかがお過ごしでしょうか。今回は、通信教育課程の補助教材『雲母』6,7月号コラムで簡単にご紹介した作品の見方に関連して、「よく見る」ということについて述べてみたいと思います。コラムでは、まずは自由に見ること、その上で内容と造形、2つの観点から見ることについて述べましたが、特に造形に着目した見方について、以前の『雲母』コラム(2021年2月号)で少し具体的に書いておりましたので、少し手を加えたものを改めて掲載いたします。

 作品をよく見ることは、作品研究に取り組む際の基本です。しかし、「よく見る」とは具体的にどういうことなのでしょうか。意味はわかるけれど、具体的にと問われるとわからないという方もいらっしゃるのではないでしょうか(私がそうでした)。それは一概にはいえず、意味内容を把握するため、模写や複製制作のため、作品記述のため、作品のコンディションの見極めなど目的によって見方は変わってきます。ここでは、特に、造形の特徴を捉えるということについて、絵画を例に述べてみたいと思います。

 ある絵画に対峙するとき、まず全体的な印象を持つでしょう。明るく楽しい感じ、穏やかで心安らぐ感じ、あるいは暗く寂しい感じ、不安定で落ち着かない感じ等々のほか、素晴らしい!の一言で表されるかもしれません。では、なぜ、そのように感じるのでしょうか。その印象はどこからくるのでしょうか。
 絵の印象をつくりだしているもののひとつは、造形要素とその構成、つまり線や形、色彩とその配置や関係性です。例として、よく知られている京都・高山寺所蔵の絵巻《鳥獣人物戯画》をみてみましょう。

鳥獣人物甲巻3京都 高山寺所蔵 鳥獣人物戯画 甲巻の一部 筆者所有資料より  
※赤円は筆者加筆
※画像は高山寺HPを参照ください。  https://kosanji.com/chojujinbutsugiga/

 上図は甲巻の一部ですが、これを見たとき、どのような印象を持ちますか?白描つまり色彩はなく線のみで表された猿や兎、蛙の様子は、いつ見てもユーモラスで楽しく、はずむような躍動感とともに、今を楽しむ喜びまでも伝わってくるようです。これは筆者の個人的な印象ですが、皆さんがそれぞれ感じたことを、まずは言葉にしてみてください。
 次に、印象の中身を具体的に考えてみましょう。今度は造形要素に着目します。まず、各々のモチーフを形作る線に注目すると、太さや強弱、墨の濃淡やかすれなどで変化がつけられ、その筆運びはのびやかでかつ的確です。線のもつ豊かな表情は白描画の魅力のひとつです。ぜひ大きな図版や拡大図で見てください。さらにその線で表されたモチーフは、円でおおらかにまとめられており(上図赤丸参照)、はずみながら転がるように配されています。このような特徴に加えて、動物たちの表情や身振りが加わることで、上に述べたような印象がつくりだされているように思います。これはあくまでも筆者の見方ですが、皆さんはどうでしょうか?

 ここでは、紙面の都合上、線描と円に特化して簡単に述べました。そのほか、三角形や四角形、水平線や垂直線、シンメトリー、渦巻やらせんなどの幾何学的な形に加え、色彩、さらに遠近法などが加わると、印象とその内容の分析はもっと複雑なものとなるでしょう。
 一方で、幾何学的な形が見えてこない作品もあり、曰く言い難い魅力を感じることもあります。この「言い難い」印象の中身も、造形の特徴をよく見ることを通じて明確にしてみてください。例えば、モチーフの不規則な配置、アンバランスな色の取り合わせ、筆致のゆらぎ等が挙げられるかもしれませんね。
 よく見てその視覚的な特徴を捉えたら、それを最初の印象に戻してみましょう。部分の観察で得た結果を、最初に感じた全体の印象と関連づけてとらえることで、感覚的な印象に説得力をもたせることができます。そして最後に、一連の作業の成果を言葉にしてみてください。少し面倒に感じるかもしれませんが、言葉にしようと考えを巡らせているときに、思いがけない気づきを得ることもあります。ぜひ言語化まで含めて「よく見る」ことを実践していただければと思います。

 最後にもうひとつ。造形に着目する見方は、制作をされている方はすでにお持ちかと思いますが、これから身に着けたいと考えている方には、ぜひ模写をしてみることをおすすめします。再現するためには、ミクロの目で丁寧に見て各造形要素の特徴を見極めることと、全体を俯瞰してそれらの関係性をとらえることが必要です。鉛筆でデッサンをしてみるだけでもかまいません。いくつか模写をするうちに、自然と造形の特徴を把握するような見方ができるようになります。それとともに、画家の腕前のほども感じられるようになり、図像や意味を読み解いていくこととは別の、造形物としての絵画の面白さを実感することができます。
 美術館に足を運んだり、お手持ちの図版や美術館のサイトを利用して、気になる作品をじっくりと見て、時間のある方はぜひ模写にも挑戦してみてください。そして何より、作品を「よく見る」ことを楽しんでくださいね。


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