佐藤守弘(本学講師)
タイトルだけを見ると、芸術学とはまったく関係がなさそうに思えるが、実は本書は視覚文化論の必読書とされているものである。著者は、19世紀ヨーロッパに網目のごとく張り巡らされた鉄道が、人々の知覚──特に視覚──にどのような影響を与えたのかを綿密に検証する。鉄道の窓からの眺めは、それ以前の移動において経験されたどんな景観とも違う。
佐藤守弘(本学講師)
本書は、タイトルから連想されるような古代から現代に至る「日本美術の流れ」を記した通史ではない。編者たちはまず「美術作品」をコミュニケーション・メディア、すなわち〈注文→生産→流通→消費〉という一連の過程の中で、情報を伝達する媒体(メディア)として捉えて、そのコミュニケーションの全体像を明らかにする。
上村博(本学教授)
本書は「ルネサンスの女性論」シリーズの3冊目である。既刊はピッコロミーニ『女性の良き作法について』、フィオレンツォーラ『女性の美しさについて』であり、女性像についてルネサンス期に交わされた議論が直かに日本語で読めるのは幸運である。本書は著者ルイジーニが夢の中でとある別荘におもむき、貴顕淑女と会話して三日間すごす、という設定をとっている。
佐藤守弘(本学講師)
1839年、写真術が発表されて160年余が経った。本書は、その間に登場したさまざまな技法や思想を多角的に説明するキーワード集である。挙げられた項目は125。それぞれの項目は、有機的にリンクしている。例えば「バウハウス」を調べると、「ニュー・ヴィジョン」や「ストレート写真」という運動と関係していることが判り、「建築写真」というジャンルとの関係、「フォトグラム」という技法との関連も出てくる。
佐藤守弘(本学講師)
最近、久しぶりに大好きなアーロン・エルキンズのスケルトン探偵シリーズを読み返した。主人公は形質人類学者。古い骨を観察し、触るだけで、その人間の性別、年齢はおろか、生きていた時の職業や性向まで当ててしまう。いうまでもなく、これはシャーロック・ホームズ以来の伝統を継いだ探偵像である。探偵小説/推理小説とは、一九世紀後半に生まれた新しい文芸ジャンルである。
佐藤守弘(本学講師)
佐藤守弘(本学講師)
一八七三年、日本政府ははじめて公式に万国博覧会(於ウィーン)に参加した。その時の総責任者であった佐野常民は、報告書に言う。博覧会とは「眼目の教」──すなわち視覚的情報によって人々を教化する装置──であると。まさしくその通りで、博覧会の伝えたメッセージとは、時には国威の発揚であり、帝国主義イデオロギーであり、また時には消費文化の振興でもあった。
佐藤守弘(本学講師)
雪舟等楊の没後五〇〇年を記念して、さまざまなイヴェントや書籍が目白押しである。特に京都の国立博物館での特別展は、異様な人気(数時間待ち!)を呼び、また近く始まる東京国立博物館での特別展もまた大入りになることは今からでも予想できる。しかし、さまざまな取り組みにもかかわらず、そうしたものの多くは、雪舟の「画聖」伝説を追認、再生産に終始しているように感じてならない。
佐藤守弘(本学講師)
本書は、明治天皇の肖像写真を手掛かりに、近代天皇制の為した〈視線の政治学〉を読み解いたものである。〈御真影〉とは、間違いなく戦前の日本で最も有名であった写真(明治天皇の場合、正確に言うと手描きの肖像画を写真で複製したもの)であり、「これほどの政治性を発揮した写真は世界にも類を見ない」のである。そのイメージが、どのように「天皇制国家」を作り上げていったかを語るのがこの書の主眼であるが、「写真論」としても面白い視点を持っている。
上村博(本学教授)
ヴェルフリンの『基礎概念』はかつて一世を風靡した様式史の典型を示す著作である。旧訳は入手困難だったが、このたび新たな翻訳が出た。様式史は今日いささか古臭く語られることもあるが、実際にヴェルフリンの著作を読むと、その非常に鮮やかな切り口に魅せられる人は多いだろう。特に、ルネサンスとバロックの空間のあつかいかたは、教科書的に五つの対概念を並べただけでは、その本当の興味深さはわからない。