文献案内:H.ヴェルフリン『美術史の基礎概念』海津忠雄訳、慶応大学出版局、2000年

カテゴリー: 過去サイトの記事 |投稿日: 2003年12月19日

上村博(本学教授)

 ヴェルフリンの『基礎概念』はかつて一世を風靡した様式史の典型を示す著作である。旧訳は入手困難だったが、このたび新たな翻訳が出た。様式史は今日いささか古臭く語られることもあるが、実際にヴェルフリンの著作を読むと、その非常に鮮やかな切り口に魅せられる人は多いだろう。特に、ルネサンスとバロックの空間のあつかいかたは、教科書的に五つの対概念を並べただけでは、その本当の興味深さはわからない。たとえば、「平面」対「奥行き(深さ)」など、それだけ取り出しては誤解を生じてしまうだろう。機械的分類の特徴が問題ではなく、バロックがいかに「表面」を革新したか、それが肝心である。ただし、彼の著作としては、大部だが特に建築を論じた『ルネサンスとバロック』の方が最初に読むには良いかもしれない。新訳はありがたいが高価(10,000円)なのが難。

*記事初出:『季報芸術学』No.8(2001年1月発行)


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