月と貝殻

カテゴリー: 過去サイトの記事 |投稿日:2005年10月7日

上村博(本学教授)

(『雲母』誌の研究室便りのつづきでもあります。)  先日、地質学の先生に海岸の地層と潮のお話を伺いました。潮の満ち引きは、ご承知のとおり、月の引力や太陽の引力によって生じます。海からずいぶん離れた京都あたりで暮らしていますと、潮の干満にもついつい無頓着になってしまいますが、港町の方はもちろん、海辺の生物にとっては一大事です。とりわけ、海水中からいろんな養分を摂取している魚介類にとっては、潮はそのまま自らの生活の基盤であり、リズムとなっています。そして貝類は、成長の過程で自分の殻を長い時間をかけて形作るのですが、そこに潮の満ち干がはっきりと年輪を刻むように模様として残るそうです。それが成長線と呼ばれるもので、年輪どころか、一回一回の干満が線となって堆積し、貝殻の複雑な模様を織り上げてゆくそうなのです。気の長い話です。

上村博(本学教授)

 2003年12月14日、ヴェネツィアの劇場ラ・フェニーチェ(不死鳥)が再開した。

 フェニーチェ劇場は1792年5月16日に創建され、ロッシーニの『タンクレーディ』『セミラーミデ』や、ヴェルディの『エルナニ』『リゴレット』『ラ・トラヴィアータ』など多くの作品がそこで作られてきたが、その途中、1836年にも火災に遭っている。今回、1996年の1月に電気系統の失火で焼失して以来、ほぼ8年ぶりに劇場として再開するが、これは1837年当時に再建された状態を復元したものとなっている。

上村博(本学教授)

 原題は Le Japon eternel すなわち「永遠の日本」であるが、山折教授によると、ドゥレ氏は日本美術研究者とのことである。ガリマール社の「再発見」シリーズは、珍しい図版を豊富に含むことで知られているが、本書も例外ではない。本文が遠慮がちにさえ見えるほど多様多彩な体裁になっており、日本美術に疎くはないはずのフランスの読者も、さぞ目を奪われることだろう。勿論、日本人にとっても刺激的な案内になっている。

上村博(本学教授)

 本書は「ルネサンスの女性論」シリーズの3冊目である。既刊はピッコロミーニ『女性の良き作法について』、フィオレンツォーラ『女性の美しさについて』であり、女性像についてルネサンス期に交わされた議論が直かに日本語で読めるのは幸運である。本書は著者ルイジーニが夢の中でとある別荘におもむき、貴顕淑女と会話して三日間すごす、という設定をとっている。

上村博(本学教授)

 ヴェルフリンの『基礎概念』はかつて一世を風靡した様式史の典型を示す著作である。旧訳は入手困難だったが、このたび新たな翻訳が出た。様式史は今日いささか古臭く語られることもあるが、実際にヴェルフリンの著作を読むと、その非常に鮮やかな切り口に魅せられる人は多いだろう。特に、ルネサンスとバロックの空間のあつかいかたは、教科書的に五つの対概念を並べただけでは、その本当の興味深さはわからない。