行ってきました & これからの展覧会:2014春〜
三上美和(芸術学コース教員)
皆さんこんにちは、教員の三上です。行く先々で桜に迎えられる季節となりましたね。以下、最近見た展示を紹介します。
世田谷美術館のある砧公園の桜はまだつぼみで、満開は会期終了間際になりそうですが、同館で開催中の「岸田吟香・劉生・麗子 知られざる精神の系譜」(4月6日まで、岡山県立美術館で4月18日から5月25日まで巡回)では、近代を代表する洋画家岸田劉生を軸に、その父吟香、娘麗子の活動を資料と作品でたどるものです。吟香は日本初の新聞を横浜で創刊し、起業家として活躍する傍ら、同時代の美術家たちとも盛んに交流しており、吟香が激賞した高橋由一《甲冑頭》や、山本芳翠の代表作《裸婦》、小林清親の浮世絵も同展の見所の一つ。劉生についても代表的シリーズである《麗子像》の他、初期の水彩画から晩年の風景画まで展示。さらにこれまでほとんど知られてこなかった麗子について、幼少期から晩年までを作品と資の料で丁寧に紹介。麗子が美術学校入学の夢を娘に託しつつ、明るい油彩画を生涯描き続けていたことなどを知ることができる貴重な機会となりました。
岸田吟香と交流があったとされる写真家下岡蓮杖。その大規模な回顧展が東京都写真美術館で開催されています(「没後百年 日本写真の開拓者 下岡蓮杖」5月6日まで、静岡県立美術館で6月10日から7月21日まで巡回)。
本展はタイトルにあるように、幕末から明治期、横浜で写真師として活躍した下岡蓮杖についての最新の研究成果を踏まえた回顧展です。蓮杖の生涯については、資料が乏しいことと蓮杖自身の虚言癖とにより不明な点が多いそうですが、本展には写真、絵画作品と、同時代の写真機などの資料から、可能な限り蓮杖の実像に迫ろうという強い意志が感じられました。最晩年、日本画を盛んに制作したとされ、特に濃彩の《琴棋書画図》など不思議な作品もあり、それらについては今後のさらなる検証が期待されるところです。とはいえ、写真が同時代の様子を如実に伝える媒体であることを改めて強く感じさせる展示でした。先の大震災でも写真のもつ力が再確認されましたが、日本における早い時期の写真受容に大きな役割を果たした蓮杖について詳しく知ることのできる、大変有益な内容でした。
次に、これから行く予定の展覧会をいくつか紹介しましょう。桜満開の上野公園ではたくさんの良い展覧会が開催されています。「観音の里の祈りとくらし展-びわ湖・長浜のホトケたち-」(東京藝術大学大学美術館、4月13日まで)では、琵琶湖北岸で古くから土地の人々に守られ伝えられてきた仏像が展示されています。展示では現地の雰囲気を伝えるような工夫が凝らされているそうです。本展を紹介した朝日新聞の記事によると、仏像の所蔵先の関係者は当初、貴重な仏像の輸送に心配する声も上がったが、東北への玄関口である上野で開催されるなら、と承諾されたことが書かれていました。こうした人々によって貴重な仏像が今日まで伝えられたことに気づかされます。
東京国立博物館では「開山・栄西禅師 800年遠忌 特別展 栄西と建仁寺」(5月18日まで)で、宗達の《風神雷神図》(全期間展示)はじめ、栄西関係の貴重な資料と作品が多数出品されています。特別展を見るときは、あわせて常設展示も必ず見てくださいね。時間もかかるし疲れますが、それだけの価値はあります。
美術展とは言えませんが、東博向かいの国立科学博物館の特別展「医は仁術」展(6月15日まで)が開催されています。本展では現代の日本における医学の発達の先駆けを江戸に見ており、琳派、浮世絵を楽しんだ人々を美術とは違う角度からうかがい知る機会となりそうです。
近日公開の「第32回上野の森美術館大賞展」(4月25日から 5月8日まで、4月30日は休館)では、ジャンル、団体を問わず新しい才能を発掘、奨励しています。現在進行形の日本絵画にも触れてみると良いでしょう。