拈華微笑2013(3):やめずに続けること―ある日本画家の言葉から―

カテゴリー: 『雲母』について |投稿日: 2014年4月10日

三上美和(芸術学コース教員)

 連休も終わり、新緑のまぶしい季節です。四季折々の花を眺めるのは楽しいものですが、花をテーマに作品を描いている画家にとって、天候、気温の具合でスケッチ旅行の日程が左右されるため、楽しいどころではありません。一度見逃すと次にスケッチできるのは一年後だから、天気予報とカレンダーをにらむ毎日。これは、先日お会いした日本画家の話です。この時印象に残ったエピソードを紹介します。

 ちょうど牡丹の季節で、玄関先はじめ、階段、二階やベランダまで牡丹で一杯でした。これらのなかから一番見頃のものを次々とスケッチしていくそうです。うかがった当日の朝描いたスケッチを広げながら、スケッチのポイントは、自分にとってよくわかっているところは省き、そうでない部分を「しつこく」、つまり粘り強く、根気よく描く、ということでした。また、職業画家の性で、時には描きたくないこともある。そんなときは、なにかしら自分を楽しませる小さな工夫を凝らしているのだと明かしてくれました。スケッチの際には、枯れた牡丹でも牡丹だが、下手な絵では牡丹にならない、本物の花より良い絵にならないと、写した意味がないと常に思っている、という言葉に、制作に取り組む厳しい姿勢を感じました。

 大学教授時代に多くの弟子を育てた経験から、一度筆を止めると絶対にものにならないという実感があるそうです。四年か六年描いて、そのあと何十年か置いて再び描こうとしても、昔習った当時の絵にしかならない。だから、絵かきを続けるのは売れるまでほんとうに大変だけれど、若手はなんとかして食いつないで続けていくべきだ。自分も若い頃ずっと実家に居座っていたが、それくらいの図太さも描き続けるためには必要なのだと。

 内容は真面目なものでしたが、終始笑顔で冗談まじり。からりと明るい人柄は、作品にも通じていると思いました。継続が大切なのは、学習する上でも同じです。大学で学習の基礎を身につけてから、その後どう続けていくか、それぞれ方法は違っているでしょう。研究した内容について書かれた新しい本や論文を探して読む、関連する展覧会に行くといった小さなことでも、止めずに少しだけでも続けていくことで、今までより考えや物の見方が深まっていくと思います。これから卒業研究に進むみなさんにとって、まだまだ先の話のように思われるかもしれません。でも、卒論を書いたら卒業ですから、その先も案外すぐやってきます。みなさんも明るく「しつこく」学び続けてください。

*記事初出:『雲母』2013年7月号


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