拈華微笑2014(6):読書案内―美術を書くこと―

カテゴリー: 『雲母』について |投稿日: 2014年11月25日

熊倉一紗(教員)

 2014年もあっという間に終わりを迎えようとしている中、皆さんレポート課題や研究論文に頑張って取り組んでおられることでしょう。今回の拈華微笑は、美術に関するレポートや論文を書く機会の多い皆さんにある書籍のご紹介をしたいと思います。シルヴァン・バーネット『美術を書く:美術について語るための文章読本』(竹内順一監訳、東京美術、2014年)です。

 本書は、A Short Guide to Writing about Artの第7版を日本語訳にしたもので、1981年以来11版を重ね、現在でも改訂版が出版され続けているというロングセラー。対象は美術史を学ぶ学生で、最終章には論述式試験にどうやって臨めばいいのかまで書いてあります。内容は大きく3つに分けられます。まず評論文の構成方法や美術作品の解釈・分析・比較の仕方を論じ、美術を研究するとはどういうことかを説明しているパート(1 〜4章)。次に様々な方法論、例えば伝記的研究やイコノロジー、そしてジェンダー研究といった新しい美術史学(ニュー・アート・ヒストリ―)がどのような視座から美術を語るのか、それぞれの違いを踏まえつつ紹介しているパート(7,8章)。最後は文章形式の整え方や文献の調べ方、註の書き方を解説した実践的なパートになっています(5,6,9,10章)。

 本書の特色は、一言で言えば「懇切丁寧」ということでしょう。各章の最後にまとめとしてチェックリストが付いており、実際に論文やレポートを書く際に参照しやすくなっています。

 またメモや下書きの仕方にはじまり、評論文や展覧会評の実例、さらに「効果的な文の例」と「悪い例」も載せているので、何がどうダメなのか明白に理解できます。出典や書誌情報の書き方のところでは、英語とともに日本語での書き方も併記されているため、参考になることでしょう。その書誌情報の種類も電子メディアの場合から論文、雑誌、新聞に及び、広く対応できるようになっています。講師が口頭で述べていることを詳細に言語化した本書、ぜひとも一度読んでいただければと思います。

*記事初出:『雲母』2014年12月号


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