拈華微笑2017(2):外国語のススメ
池野絢子(教員)
卒業研究で西洋美術史を研究したいと考えていらっしゃる学生さんからたまに寄せられる質問に、「語学に自信がないのだけれど、どうしたら良いか」というものがあります。関心はあるのだけれど、外国語が読めないから、研究対象としては選べない。そう思って西洋美術史をあきらめてしまう方もいるようです。確かに、海外の画家や芸術作品を調べようと思ったら文献を読まなければならないですが、モネやピカソなど、よほど名の知れた芸術家を別にすれば、日本語の資料は限られています。かといって、限られた時間のなかで、英語の文献なんてとても読めない! というご意見があるのはもっともなことだと思います。
こういう質問をされたとき、私はいつも二つのことをお伝えするようにしています。一つは、日本語の資料からだけでも、わかることはかなりあるということ。もちろん、その芸術家の知名度にもよるでしょうが、ある程度の基本的な情報さえわかれば、あとは論じ方の問題です。たとえば同時代の別の芸術家の作品と比較してみるとか、ジャンルや時代背景について考えてみるとか、自分なりの切り口で問題設定を考えられれば、独創的な研究をすることだって不可能ではないのです。
もう一つは、せっかく大学生なのだから、はなから無理とあきらめてしまわないで、外国語にチャレンジしてほしい、ということです。誤解されている方が多いようですが、たとえば英語の文献を読む場合にも、本一冊を最初から読んでまるまる理解する必要はまったくないのです。私たち研究者も、外国語の本を読むときは、まず目次を読んで、自分に一番関心のありそうな章や節だけを先に読みます。必要なら序論やその他の章を読みますが、基本はこのような「つまみ食い」の集積です。それに、英語のように中学高校で学んでいて、ある程度文法について知識のある言語であれば、「読もう」と思いさえすれば、辞書を引き引きで実は結構読めたりします。嘘だと思われるかもしれませんが、試しにやってみてください。
私は学部生の頃、いわゆる「語学マニア」で、専門の科目をそっちのけにして複数言語の授業をたくさん履修しました。なんと無計画な学部生だったことかと思いますが、思い返してみると、あの語学に熱中していた時期の経験がいま一番役立っている気もします。語学というのは、技術でもあります。もし読めるようになれば、みなさんが大学を卒業しても、それは身につけた技術として残ります。今のご時世、英語が読めるようになって損になることはそんなにないでしょう。だから、「無理だから」とあきらめてしまうよりは、外国語を身につける「良い機会だ」とポジティヴに捉えて、チャレンジしてみてほしいと私は思います。もちろん、地道に読み続ける努力が大切ですが、1ページでも、2ページでも構わないのです。外国語が一つ読めるようになると、単純に考えて、世界は二倍にも三倍にも広がります。これは、想像してみただけでも素晴らしいことだと思いませんか。