ミュージアムの新たな動き―「おうちミュージアム」「おうちで浮世絵」について
三上美和(教員)
みなさん、こんにちは。芸術学コースの三上です。新型コロナウィルスが猛威を振るい、日々深刻さを増すなか、どのようにお過ごしでしょうか。体調を崩した方、御家族の方がおられましたら、一日も早く回復されるようお祈り申し上げます。日常風景が一変する一方、例年通り季節がめぐり、日増しに緑の濃くなるのを目にすることで、ひととき救われるような気持ちになります。
このような状況にもかかわらず、今年も多くの方が本学に入学くださいました。その新入生はもとより在学生達も、今後の学習に不安を感じていると思います。彼らの気持ちが少しでも軽くなるよう願いつつ、ネットを活用した資料や文献の探し方、取り組みやすい科目のアドバイス、さらに遠隔による授業の実施など、大学の教職員一同、待ったなしの対応に追われています。
私たちと同じく、全国、さらに世界中のミュージアム関係者たちも、休館を余儀なくされる中、今できることを探っているようです。その結果のひとつとして、TwitterやFacebookといったSNSを通じて、展覧会の様子や作品解説などの情報が、かつてないほど精力的に配信されています。最近、ネットのニュースや新聞などでもしばしば話題になっているため、御存知の方もおられるでしょう。
こうした活動のさきがけとして、今年2月末、北海道博物館が道内の学校の休校をきっかけとして始めた「おうちで楽しくまなべる おうちミュージアム」が注目されています(『毎日新聞』4月19日朝刊1面「余禄」で紹介)。
実際に同館ホームページを御覧いただければ分かりますが、所蔵資料を使い、「塗り絵」「すごろく」または道内の地名を「しりとり」でつなげるなど、懐かしい遊びを通じ、自宅で過ごす時間が急に増えた子供たち、その親ごさんたちが楽しみながら地域の理解を深めるよう工夫されています。
この「おうちミュージアム」の活動は、同館の呼びかけにより全国に広がりつつあります。
http://www.hm.pref.hokkaido.lg.jp/ouchi-museum-list/
同様の動きは他にも見られます。太田記念浮世絵美術館がTwitterで所蔵作品の紹介を始めた「おうちで浮世絵」もそのひとつです。アダチ版画店のブログによると、これが話題となり、その後、浮世絵を所蔵する美術館にも広がっていきました(アダチ版画スタッフブログ「#おうちで浮世絵 楽しみませんか」
アダチ版画店ホームページよりhttps://www.adachi-hanga.com/staffblog/001326/)。
同ブログでは、同店で浮世絵版画を購入した顧客が自宅で浮世絵を楽しんでいる、まさに「おうちで浮世絵」そのものの様子をネットに投稿していることも紹介されています。ちゃっかり宣伝も入れる同店はなかなか商売上手ですが(お店のHPなので当然ですね)、浮世絵が美術館で眺めるだけのものではないことを示す好例とも言えるでしょう。
これまでも自然災害などでミュージアムが休館せざるを得ないことはしばしばありましたが、今回のように、世界中のミュージアムが一斉休館するのは初めてのことです。しかも、多くの学校が休校や時短通学となり、私たちも在宅を余儀なくされる今、子供も含めた社会教育の場として、博物館、美術館の存在意義が改めて問われ、それにミュージアムが真摯に応えている状況と言えるでしょう。
実はミュージアムはこれまでも、Twitter、Facebookの他にも、メールマガジン(メルマガ)と呼ばれるメール配信などで、私たちに情報を発信してこなかったわけではありません。しかし、ミュージアム活動の根幹である「展覧会で所蔵作品を見せる」ことが不可能な状況下、それぞれの館が自分たちに何が出来るのかを考え、私たちに向かって積極的に行動している姿に、少し大げさかもしれませんが、ミュージアムの新たな可能性の扉がひとつ開いたように感じられます。
もちろんこの自体が収束すれば、開催中の展覧会を動画で配信するといった動きは控えられるかもしれません。しかしながら、私たちの外出自粛は一時的なものである一方、家族の介護、自身のけがや病気などで外出できない人たちはこれまでもいましたし、私たちもいつかそうなるかもしれません。「おうちで楽しむ」ミュージアムは、そのような人たちにとって大きな喜びになるでしょう。
新型コロナの拡大を防ぐため、私たちは最大限の努力を続け、なんとしてもこの困難を乗り切らなくてはなりません。そして、今のつらい経験を、私たちのこれからの生活の糧にしたい。「おうちミュージアム」「おうちで浮世絵」といった新たな情報発信の広がりが、ミュージアムと私たちの良き未来につながることを願っています。そして、外出制限の中、発信し続けるミュージアム関係者をはじめ、今頑張っているすべての方々に心からのエールを送ります。